少女の選択

ここまで来た人だけ味わえる感動。

どこまでも広がる黄色い絨毯もいいけれど、ひまわりの黄色、頭上に広がるスカイブルー、そして眼下に広がる濃紺。

このコントラストは素晴らしい。


この景色、彼にも見てもらいたい。


くるり、身体ごと振り返る。

スカートが追いかけるようにふわんと広がった。


「先輩!こっち!来てください!」


両腕を高くあげて、ぶんぶんと左右に大きく振る。

こちらに携帯を向けていた彼が、そんな私を見とめると少々驚いたような顔をした。


ぽけっと突っ立っている彼に「せんぱーい!何してんですか!」と再度声をかけると、ふは、と笑ったのが見えた。


「なに、どうしたの」

「見てください!これ!」


ゆっくり近づいてきた彼が横に並ぶ。

そして。


「うお、すっげー!」


タレ目をまぁるくさせて、口元が大きく横に広がる。


「凄くないですか!」

「いや感動だねこれ!」

「ほんとのほんとに最高です!」

「ほんとのほんとのほんとに最高だな!」


ばしばしとお互いの腕を叩きながら興奮を表現する。


「それにしてもロバ先輩って、なんでこんな場所知ってるんですか?」


そう問うてみれば、なぜか「うーんとね…」と言い淀む。


「良く言えば将来のためかな?」


”良く言えば”…?


「写真家でも目指してるんですか?」

「いやぁ、いつか彼女が出来たときに好感度アップを狙ってるらしい」


「女子ってこういう場所知ってるとすごーいってなりがちじゃん?」ということらしい。

悪く言えば下心満載というわけか。

言い換えてあげる先輩の優しさよ。


「で、肝心の彼女はできたんですか?」

「そこはほら、察して」


いないんだぁ。


「でもあいつ、今好きな子に猛アタック中だよ」

「へぇ、好きな人はいるんですね」

「ほら、マネージャーやってるお友達」

「へぇ…て、えぇ!?」


そうなの!?


「あ!だから前にわざわざ連絡事項言いにきたとか!」

「当たりー」


まさかの!?

そんな複雑なことになっていたとは…!

でも生憎彼女はフレッシュ先輩が好きだから…ご愁傷様です…ロバ先輩。

せっかく素敵な場所をリサーチしてるんだ、いつか報われますように。


「理由は何であれ、場所は素晴らしいので!ゴッドロバ先輩にしっっかりお礼言っておいてくださいね!」

「ゴッドってなんだよ!」


ケラケラと笑う彼のひまわりの似合うこと。

今日も白い歯が輝いている。


「それと先輩も、誘ってくれてありがとうございます!」

「どういたしまして。俺が一緒にいたかっただけなんだけどねー」


ぽんと大きな手が頭を撫でる。

横を見上げれば、目があった途端ふわりと目尻が垂れた。

やっぱりその目、好きだなぁ。


「先輩」

「んー?」


優しい声音とゆるりと上がる口角。


「早く描きましょう!!」


ぐっと拳を作れば、ふっと細められた奥二重。

ケラケラと笑いだした彼は「言うと思った!」なんて。


「よっしゃ描くぞー!」

「描くぞー!」


太陽がしつこく見守るなか、意気揚々と日陰に向かって駆け出した。



さっそくベンチに並んで座り、各々スケッチブックを取り出す。

2人の間に家から持ってきた例の色鉛筆を置いた。


「あ、これがあの?」

「そうです!」


開封の儀、とでもいうように「パッカーン」なんて浮かれた効果音を自ら発しながら蓋を開ければ、

しっかり使い込まれてほとんどが半分の短さになっている色鉛筆が、グラデーションになって並んでいた。


「結構使ってる!」

「いやいや、中1のときに買ってもらったやつなのでかなり残ってるほうですよ!」

「たしかに3年あってこれは…」

「大事すぎてなかなか使えなかったんですよね」

「そっちのパターン!?」


「速攻で使いそうなのに!」とケラケラ笑う彼。

今日はよく笑うな、なんて。楽しそうな笑い声が心地良い。


「自由に使ってもらっていいんで!」

「短ーくなっちゃうかもよ?」

「あ、それはちょっと」

「あっはは、分かってるよー!」


先輩は「ありがとね!」とニッと笑ってみせて、自身の愛用している色鉛筆も並べて置いた。


家から持ってきていた飲み物と、駅で買ったペットボトルも傍らにセット。

ついでに。


「これも、良かったらお供にどうぞ」


コロコロとたっぷりのアーモンドを入れた紙コップも。


「さすが!もう完璧だね!」

「今日は色鉛筆なんで紙コップじゃなくてもいいんですけどね」

「いやいや、これが良いんじゃん!」


「美術部の名物!」なんて勝手に特産品にされている。

ちなみに、こうしたほうが食べすぎ防止になったりもする。


「では、絵の世界へ」

「絵の世界へ、いってきます」


謎の合言葉を皮切りに、私たちはお互いの世界へどっぷりと浸かっていった。

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