少女の選択
部活のあと、2人で教室を出ることが増えた。
校門を出た先は真逆に分かれるため、そこまでのんびりと歩く。
「1年は今まで描いた中で1枚、2年になるとそれプラス文化祭用に1枚描く、3年は受験生だから出す出さない自由」
「なるほど。じゃあ私は文化祭までに描いた中で1枚選べばいいんですね」
ふむ…どれにしよう。
入部して数か月しかたっていないけれど、すでに数枚出来上がっている。
「普通はさ、選べるほど描けてないんだよ、1年って」
「え、そうなんですか?結構描きましたけど」
「そりゃ毎日描いてたらね!」
ケラケラと笑う先輩に、たしかに、と納得してしまう。
「実は俺も去年一人だけ枚数ありすぎて先生に選んでもらったんだよなー」
「サッカーやりながらだったのに?」
「その頃はまだ美術部だけだったからね!」
「夏の練習試合でケガしたやつがいて、そいつの代わりやったのが1番最初」と教えてくれた。
「ここまで絵が好きな子、俺の周りにはいなかったなー」
「私の周りにもいないです」
「でも今は俺がいる!」
「サッカーしてる人に言われても…」
「息抜きも大事!」
サッカー部息抜きなんだ…
一応部員にはなってるのにそんな遊び感覚で…まぁどうでもいいけど。
「文化祭で3年生は引退ですか?」
「一応ね!とはいえ美術部は3年になったら自由活動だから、今の先輩たちもたまーにしか来ないでしょ?」
言われてみれば、部室に集まる人は2年生と1年生がメインだ。
ただでさえ美術部は週に2日しか活動していないのに、それすら自由になったらよほどの絵好きじゃなければ帰宅部と化すかもしれない。
それこそ息抜きにちらっと顔を出す先輩がたまに現れるくらい。
「今年はそうでもないけど、去年の3年生は結構顔出してたけどなー」
視線を宙へ彷徨わせながら思い出すように話してくれる。
「3人いたんだけど、仲の良い先輩たちだったから文化祭の絵も共同で1枚描いてた気がする」
「そういうのもアリなんですね」
「自由だからねー」
今年の3年生は出さなさそうだな、と先輩は続けた。
「ちなみに美術部は、夏休み部活はありません」
「え!!!」
なんで!?どうして!?
「長期休みは顧問が自分の絵の制作に入るからです!」
「めちゃめちゃ先生の都合…」
がっくしと肩を落とした私を見て、おかしそうに笑う先輩。
「そんな落ち込まなくても、平日なら学校解放されてるから自由に部室使って良いよ」
「良かったーー!!」
長期休みは絵を描くことに没頭できる素晴らしい期間!好きなだけ描けるなんて、この上ない喜び!
家で描くのも楽しいけれど、やっぱりちょっと狭いから。
広々とした庭があるわけでもなし、キャンバスを置くには少々キツい。
学校が使えるのはとってもありがたい!
「文化祭用の絵描かなきゃいけないしねー」
「あ、そっか、そうですね」
「完全に私欲のために部室使う気だったでしょ?」
「もちろん」
それ以外になにか?
「言うと思ったー!」
ケラケラと笑う先輩に、当たり前のこと言わないでください、と。
「ちなみにサッカー部がほぼ毎日活動してるから、俺もいるよ」
「毎日サッカー部って、大丈夫なんですか?制作のほう」
「俺サッカー部強制参加じゃないからね!」
だんだん本気でサッカーやってる人たちが可哀そうに…
こんな人でも居て欲しいんだから、実は相当上手いのでは?いやでも野球やるくらいだしなぁ。
それか部活自体がそこまで本腰入れてるわけじゃないとか!
「合宿だけ強制参加なの謎だけどなー」
「合宿あるんですか?」
「そうそう。3日間、他校と練習試合三昧」
あれ、結構ちゃんとしてるんだ。
じゃあなおさら…なんで先輩要るんだ。
「俺、高校入る直前までサッカークラブ入ってたから結構うまいんだよ?」
「おっと、心の声が漏れたかな」
「え!下手だと思ってたってこと!?」
「いや、まぁ、そういうことでいいです」
「たぶんいろいろ失礼!!」
なんて言いつつも、おかしそうに笑っているから気にしないことにした。
合宿、合宿か…
ん?ということは。
「それってマネージャーも参加するんですよね?」
「ん?うん、そうだね」
これは告白チャンスなのでは!?
3日間、同じ屋根の下、寝食を共にするなんて!こんな絶好の機会なかなかないじゃないか!
ふ~ん、へ~ぇ、ほ~ぉ??
なにそれ、そんな話全然聞いてなかったんだけど?
これは、夏休み明けたらお付き合いすることになりました報告聞けたりして?
「ねぇ、なにニヤニヤしてるの?」
不審者でも見るような目でこちらを見ている先輩に、はたと我に返り頭をぶんぶんと振った。
「なんでもないです」
危ない、彼女の心中を思うとどうにも。
恋愛に興味はなかったはずなのに、友達の恋が発展するかもと思うと正直楽しい。
そんな2人がいるグラウンドを絵に描けるかもと思うと、もっとワクワクしてしまう。
今大事に大事に描き進めている絵も、もしかしたら少し色味を変えないといけないかな?
「あぁ、そういえば体験入部のとき一緒に来てくれてた子、マネージャーの仕事も頑張ってるし、可愛いしサッカー部でも人気だよー」
「そうなんですよ、可愛いんですよ、すっごい良い子だし」
「いつも笑顔だし、性格もいいし、癒されるって俺の友達も言ってる」
「よく分かってらっしゃる、推しですよ彼女は!」
ここぞとばかりにアピールする。
先輩にさえ届けば良いんだけど、恋愛ってたぶん周りの好感度とかも大事だと思うんだよね。
中学の時一緒にいた子が少女漫画だったり恋愛ドラマが好きで、よくそんな話をしていたから。
自分なりに手助けできればと、彼女の良さを伝えていたら、
「友達にも言っとくー!」
まさかの返答がきて、1人立ち止まってしまった。
違う、そうじゃ、そうじゃなーい!
「今年の文化祭はどういう絵描こうかなー」
しれっと話題を戻した彼の背中に、
「先輩のアホ!」
と投げつければ、驚いた顔がこちらを振り向き、かと思えばそれは少しむっとする。
そして、
「その言葉そのままお返しするわ!俺の推しはおまえだからな!」
なんて。
いやもう、意味が分からない。
「私は誰かに推されるほどのアイドル性は持ち合わせてない!」
「そうじゃねーよ!鈍感!」
「鈍感ん!?」
今そんな話してないのに!
ぷいっと前を向いて大股で歩き出した彼を、慌てて追いかける。
しばらくもしない間に、それが私の歩幅に合っていたことなんか気に留めることもなく、
合宿のこと聞いてみようかな。
ついでにアピール失敗しちゃったかもしれないことも言っておいたほうが良いのかな…
なんて、彼女のことばかり考えていた。
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