少女の選択

***


時は遡る。

高校に入学してすぐ、前の席の女の子と仲良くなった。


少し癖のある茶色いセミロングがふわんふわんと彼女の動きに合わせて揺れているのをぼんやり見ていれば、

ふいに振り返った彼女とばっちり目が合った。綺麗な並行二重の目がまん丸になる。


「ど、どうしたの?なんか付いてた?」

「ごめんごめん、柔らかそうな髪だなーと思って」

「びっくりしたー!」


自身の後ろ髪を気にしながらころころ笑う彼女がとても可愛らしい。


「すぐに髪ぺたーんてなるし、雨の日なんかもさもさしちゃうし、あんまり好きじゃないんだ~」

「そう?ふわふわで可愛いと思うけど」

「え、ありがとう~!嬉しい!」


褒められたときに素直にありがとうと言えるところが好きだし「いつも綺麗にセットしてるの凄いと思う!」なんて、

続けてこちらのことも褒めてくれる出来た子だ。


性格も良いうえに、容姿も可愛かった。

150㎝前半だという小柄さで、ウエストは細く欲しいところにはそれなりに肉がついている。

女性らしい柔らかそうな質感の肌はいつ見てもすべすべしていた。


人当たりが良く、誰とでもすぐに仲良くなるし、よく笑う。

コミュ力お化けだと思う。


そんな彼女だから性別問わず好かれた。

どんどん友達は増えていき、入学して早1か月で彼女の周りには人が集まるようになった。

その中でも特に仲良くなった2人とは私もよく話すようになり、休み時間はなんとなくその4人で話すことが増えた。



「みんな部活決めたー?」


いつものように4人で他愛もない話をしていた休み時間、誰かのそんな一言で話題はどの部活に入るか。


「私は吹奏楽かな!」

「私運動部がいいんだけど、テニスかバドミントンかで迷ってる」

「私は美術部!」


2人に続き意気揚々と答えた。

それ目当てにここに入学したからね。


「へ~美術部!なんかかっこいいねー!」

「絵好きなの?」


対面に座る2人の問いかけに「この子すごい上手なんだよー!」と代わりに答えたのは前の席に座る彼女だった。


「見せたことあったっけ?」

「たまにノートに落書きしてるの知ってる~」

「げっ、ばれてたかー!」


ニヤリと意地悪く言う彼女に、私も2人もケラケラと笑った。


「そういえば美術部って超イケメンの先輩がいるって聞いたことある」

「あ~それ私も聞いたことあるかも」


イケメン…ほほう?

綺麗なイケメンだったら、是非とも…


「それはどれくらいのイケメン…」

「誰かに似てるって…誰って言ってたかなぁ」

「あれれ、もしかして狙っちゃう系~?」

「え、あ、そういう系~?」

「やりよりますな~」


2人は肩を寄せ合って面白そうにこちらを見ている。


「チッチッチ…そうじゃないんだよ君たち」


「何を言っているのかね」と顔の前に立てた人差し指を時計の針のように左右に揺らす。

そしてその手でぐっと拳を作ると、によによと笑う彼女たちへ宣言した。


「私はね、描きたいんだよ!」


しばし、無言の時間。


「絵にしたいってこと?」

「そう!綺麗な人ほど私は描きたくなる!」


まぁ綺麗とイケメンはちょっと違うんだけどね。


「写真家の人がなんでも写真に収めたい衝動と同じ感じ?」

「そうそう!私は絵に残したいタイプ!」


そう言えば、2人は「なるほどね~それなら分かるかも」と声を揃えて納得していた。

そんな私たちの会話を前で静かに聞いていた彼女が、


「私も美術部、体験入部してみようかな~」


と呟いた。

それに前のめりで反応したのは対面に座る2人。


「イケメン、気になっちゃった?」

「えへへ、ちょっとね」

「むしろイケメンに興味持たれちゃうかもよ?」

「それはないよ~!」


いや、あるよ~あなた可愛いし~と心で突っ込みつつ、

目的がイケメンであろうが、体験入部してみたいというお気持ちがあると。なるほど?


「ちょうど今日体験行こうかなって思ってたんだけど、一緒に行く?」

「いいの?行きたい!」


くりくりのお目目がきらんと輝いた瞬間だった。


「うわ~いいな~私もそっち行こうかな~」

「運動部志望が何言ってんだか!」

「そうなんだけどさー!感想聞かせてね!」

「もちろん~!」


授業の開始を知らせるチャイムとともに、私たちは解散した。


みんなイケメン好きだよなぁ。

いや、嫌いじゃないんだけどね、私も。描いてて楽しいし。

でも、実物に興味ないっていうか…

ただ見てるだけで何が楽しいんだか…


よく分かんないや。


「すまん、遅れた。授業始めるぞー」


ガラッと勢いよく扉を開けて、始業10分たった教室に先生は入ってきた。

目の前で茶色い髪がふわんと揺れた。

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