第8話

遠雷が聴こえたら、夏がくるよ


 あじさいの終りの歌詞、あの日の牧くんの言葉が重なる。

 最後まで曲が終わると、リピートでまた流れ出す。

 牧くんの好きだったこの曲を、雨の日に聴くのが癖になってしまった。

 遠雷の意味を知らずに聴いていた私に、教えてくれた人の笑顔が浮かぶ。

 あの頃は、わけのわからない胸の痛みに泣いた。

 それは少しずつ薄れ、ゆっくりと淡い想い出に変わりつつある。

 それでも雨の日は今も嫌いだ。

 じっと目を閉じて、イヤホンの中で静かに響く、あじさい。

 雨足が弱まった気がして、そっと目を開けた先に立ち止まっている人がいた。


 黒い傘を差す人が、あの日のように微笑んで口元が『久しぶり』と動いていた。

 物も言えずに静かにイヤホンを外して、あの頃よりも背の高い彼を見上げる。

 どうして?


「三原、だよね?」

「牧くん……?」

「そう、元気だった?」


 目を細める笑顔はあの頃のまま、私の名前を呼ぶ声は少し低くなった気がする。

 まるで狐につままれたような気持ちで彼を見つめた。

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