第7話

「じゃあ、またね。三原」

「あ、あの、今日は本当に本当に本当にっ!! ありがとう!」

「いいって、お礼楽しみにしてるから」

「ええっ」

「嘘! あ、でも。今度は三原のオススメの曲、教えて? 聞いてみたい」

「うん! あるよ、オススメいっぱいあるから、今度まとめておく!」

「ありがと、楽しみにしてる! じゃあ、また今度」


 また今度、雨が降ったら――。

 そんな言葉が続く気がして、笑顔で手を振る。

 その時になって、去っていく牧くんの右肩が濡れていることに気づく。

 牧くんの優しさに、嬉しくて照れくさくて、小さくまたねと手を振って見送った。


 だけど牧くんとまともに話したのは、その日が最後だ。

 それきり帰りが二人になることも、偶然一緒になることもなく、話せる機会がなかった。

 気軽に「この間はありがとう」なんて言えるほど、中学二年生は大人じゃなかったし、他の子の目が気になって、人気者の牧くんに話しかけられなかった。

 そうこうしている間に夏休みが明けた時、ポッカリと空いた一つの席。

 先生の口から、夏休みの間に牧くんは遠い街に引っ越したことを知る。

 その日の夜、『あじさい』を聴きながら、私は泣いた。

 素直に話しかければ良かった、なんて後悔ばかりが押し寄せて――。

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