第6話
「お、おじゃまします」
「どうぞ、ついでだし」
そっと見上げた横顔は何でもないような涼しい顔をしていた。
もしかして私が傘を持っていないかもしれないって、待っていてくれたのかな?
なんて、勘違いしかけるのを一蹴してくれているみたい。
パランパランと牧くんの傘を打つ雨音をバックミュージックにして、色んな話をする。
今日の担任はイジワルだったね、とか。
今ハマっている好きな動画や、私の飼ってるネコの話とか、どうでもいいことばかり。
お互い、異性と一緒に傘に入ることに慣れてはいないみたいで。
というか私に至っては初めてのことで、だから口数はいつもより多い。
通常時の私でもおしゃべりだって言われるのに、今日はそれ以上だ。
牧くんは、そんな私の話を、うるさがらず楽しそうに頷きながら聞いてくれる。
私の話ばかりじゃつまらなくないだろうか。
牧くんのことも聞いてみたい。
「牧くんって、家に帰ったらまず何してる?」
「うがい手洗い、音楽かけながら宿題」
「え? 意外! 静かに勉強するタイプだって思ってた。よく聴く曲とかある?」
「あじさい」
「あ、知ってる。いい曲だよね」
今人気の女性ボーカリストの曲だ。
あじさい、そう言われると、自分の名前と重ねてしまって何だかドキッとしてしまう。
いや、私のことじゃないんだけどね、やっぱり今日はヘンだよね。
牧くんの話す言葉に、ドキドキしてしまうんだ。
「あの曲ってさ、三原っぽい。楽しくて」
「え、私?」
「うん、だって三原っていつも笑ってるし。まあ、タイトルが紫陽花だしね。似てるなって思ってた」
「私、そんなに笑ってた?」
「自分で気付いてなかったの? 三原の周りって、いつも楽しそうじゃん。話したらやっぱ楽しいから思ってた通りだったけど」
「え?」
おどろいて見上げた牧くんが、私から顔を背けた。
そっぽを向く耳の裏が赤い気がするのは、どうして、だろう。
やっぱりこれも気のせいに決まってるんだけど……。
家までの距離があっという間だった。
もう少しこうして一緒に歩けたら、なんて考えてしまった私がなんだか恥ずかしい。
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