第5話

恥ずかしさから逃れるように、ノートを書き写し、時々間違えておく作業に没頭すること二十分、ようやく。


「よし、終わった~! これで帰れる! 牧くん、待っててくれて本当にありがとう!」

「いや、付き合わされただけですけど?」

「私、ノート置いてくるね」

「おう、いってらっしゃい」


 職員室の担任にノートを提出する。

 しばらくブツクサと説教されたけれど、終わったからどうでもいいもん、やっと帰れることが嬉しくて。


「今度から気をつけまーす」


 軽い返事をし、スキップ混じりに昇降口まで行くと、牧くんが私を待っててくれたように、そこにいた。


「三原、傘持ってる?」

「え?」


 牧くんの視線の先、玄関の軒下には雫がポタポタと落ちている。


「最悪……」


 トントンとつま先を打ちながら、外靴を履いて牧くんの隣で恨みがましく空を見上げた。

 いつの間にか降り出した雨が、本降りになっている。

 そういえば、今朝お母さんが言ってたっけ。

 『傘、入れときなさいよ』って。

 うん、玄関のシューズボックスの上に今も鎮座してるだろうなあ。

 どうせ降らないだろうって、荷物が重くなるのが嫌で置いて来ちゃったんだし。


「傘、持ってこなかった」

「三原の家って、三丁目方向だっけ?」

「そう」

「なら、途中だ」


 カバンの中から黒い折り畳み傘を出した牧くんが、空に向かって広げる。


「入っていけば?」


 どうぞ、と牧くんの傘の左半分を私のために開けて待っていてくれる様子に、一瞬どう断ったらいいのかと言葉を探す。


「ほら、とっとと帰るよ」


 動かない私を急かす牧くんの声に押されたようにつま先が弾んだ。

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