第3話
高純度の金剛石を膨大に埋蔵している —— と推測される宝の山 —— ディアモン山は、
そのディアモン山には、錬金術により誕生した《魔竜》が封印されているというのは、幼子ですら知る伝説であり、その伝説が真実だということは、地殻変動により発見された古代魔法陣が証明している。
「その魔法陣の封印を解呪しない限り、金剛石が眠る鉱道の奥へはいけないなんて……まあ、たしかに封印をなんとかしたくなるものよね」
ブルゴーヌ王国の識者たちは、これまで幾度となく解呪を試みたようだが、いかせん封印を解くには古語の解読が必要不可欠だ。
「……どうしたものかしら」
エリーゼの溜息は深い。じつのところ、エリーゼはすでに解呪の方法を知っている。
アルトーの書斎で発見した『賢者の書』には、当時のことが
ただ残念なのが、解呪と同時に発見されるであろう《魔竜》については、一切触れられていないということ。生態や能力、気性、生死も不明のままでは、おいそれと封印は解けない。
そこで次なる手というのが、魔竜を誕生させたアラケラスの棲家を見つけるというもの。そこにいけば、魔竜に関する何らかの資料がある可能性は高い。
その棲家はすでに、ライオネル帝国の偵察隊により、ある程度の場所まで絞られていると担当文官は云っていた。
「ようするに、目隠しの術がかけられている空間の歪みを発見したから、まずはそれを解呪して、それからアラケラスの棲家で魔竜に関する資料を探したのち、魔竜の封印を解け……」
ということなのだが。それだけでも、かなり厄介なのに、さらに厄介なのは……これら一連の話に深入りすれば、否が応でも大国同士の同盟問題という、突っ込みたくもない案件に自ら首を突っ込む羽目になってしまうことだ。
エリーゼの願いとしては、できれば何も見ず、何もせず、何も知らないまま、ルーベシランへと逃げ帰りたい。
でも、さすがにそれは無理か。オリバーはともかく、ライオネル帝国の王子はそこまで甘くない。同盟の条件でもある古語を解読できる姫を、簡単に逃がしてはくれないだろう。
―— かといって、
「解呪だけして、あとは我関せず……とはいかないもの。何かとっておきの打開策はないかしら」
「さきほど、スカリーが届けにきました」
袋の中からは、エリーゼの掌にある鉱石とそっくりの小石が出てきた。
「ディアモン山に潜入した密偵からです。ブルゴーヌ側の説明はおおむね正しいようです。鉱道周辺からこのような小石がいくつも発見されています。加えて、アラケラスの棲家と思われる空間の歪みは甚大で、目くらましの術はもってあと数日かと」
「急がないと、噂を聞きつけた自称『古語研究家』たちが、小石を拾いに押し寄せてきそうね」
「はい、それから姫様、祖父より伝言がございます」
「ステファン伯爵から? 何か良策でも授けてくれるのかしら?」
「良策かどうかは分かりませんが……」
グロリアは少し云いにくそうに、眉を下げる。
「今回の同盟条件ですが、ひとつではないようです」
「解呪以外に、まだ追加があるというの?」
「いえ、そうではなくて、ライオネル帝国側には複数の選択肢があったのではないか、ということです。魔竜の封印解呪か、或いは他の何かです」
「ほかの何か……何かって何かしら?」
エリーゼの疑問に、グロリアの眉が更に下がる。
「申し訳ございません。それを突き止めてからご報告できればよかったのですが、そこはまだ時間がかかりそうです。ただし、これは祖父の情報屋から得たものですので、信憑性は高いと思われます」
「選択肢か……なぜ、ライオネル帝国が『魔竜の封印解呪』なんていう厄介なことを選んだか、っていうのが鍵になるのね」
「おそらく」
エリーゼの頭が高速で回転しはじめる。
ライオネル帝国、ブルゴーヌ王国、ディアモン山、魔竜、財政難、解呪、或いは―— あっ、もしかして!
確信はないが、ひとつの可能性が導き出され、その確証を得るための手っ取り早い策が思い浮かんだ。
「オリバーに訊いても、ライオネル帝国の王子に訊いても、素直に教えてくれそうにないわねえ。自力で調べるしかないかあ」
エリーゼは小石を小袋に戻して、グロリアに渡す。
「リア、今宵のガーデンパーティーに出席しますと、ヴィヴィアナ様にお伝えしてきてちょうだい」
「かしこまりました」
「忙しくなるわよ。パーティーで紳士淑女の口が軽くなるように、久々に本気で着飾らないと……それから、リアには悪いけど、今夜は手伝ってもらうわよ。貴公子グレン様に、淑女の皆様方を骨抜きにしてもらわないといけないから」
「おまかせください。最善をつくします」
グロリアは颯爽と客室から出ていった。
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