第5話
クラウスは呆気にとられていた。
麗しい姫君から発せられたとは思えない毒のある発言。
そして、重税を課すことで有名なシャングリ―の貴族子息たちを前にしての「ボンクラ」連発は、意図的としか思えなかった。
侍女が止めなければ、まだしばらく続いていたかもしれない。
たぐいまれな美しさを持ちながら、これほど容赦ない毒を放つ姫君を、クラウスは見たことがなかった。
侍女にたしなめられ肩をすくめた姫君だったが、次の瞬間。「ちょっと、失礼」と、今度は大胆にもオリバーの髪に触れた。予期せぬ行動に、オリバーはもちろんのこと、周囲は騒然となる。
しかし、そんなことは意に介さず、
「黒かと思ったけど、濃紺なのね」
姫君はじっくり観察してから、ゆっくり手を引いた。
「最後に、この大陸には無知な人が多いと云わせてもらうわ。オリバー・ウイッチ、わたしは貴方が心底うらやましい。こんなにも濃い色素を持っているなんて。智の塔にあった古文書によれば、北の賢者ノーンの髪色は、貴方と同じ濃紺。智の賢者アルトーは濃緑だったそうよ。つまり、我々の祖先は、尊く賢き者ほど濃い色素を持っていたのよ」
まだ幼い姫君の淀みなく発せられる言葉は、聞く者たちの耳に歌声のように響く。
「それに東の大陸には、今でも濃い色素を受け継ぐ人々がいるらしいわ。知っているかしら、かつて東側諸国を治めていたのは、いずれも賢王とよばれる統治者だったのよ。呪われているなんてとんでもない、この色素は、賢者からの祝福だわ。もし、貴方を忌み嫌う人がいるならば、それは無知からくる哀れな発言だと思えばいいのよ。貴方が顔を俯かせる必要なんてないわ」
気づけば、オリバーの背筋は伸び、姫君の言葉に目を輝かせていた。
あの日、クラウスは恋をした。
それから、3年後。
ブルゴーヌ王国から帰国したクラウスは、すぐさま国軍への配属を志願し、ライオネル帝国史上初となる王家出身の騎士が誕生した。
それはひとえに、王位継承権が低いというだけで、理不尽な政略結婚の駒にされるのを避けるためだった。
ルーベシラン王国のエリーゼ姫
彼女にもう一度会いたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます