第40話

ウィードは言うやいなやリッタの唇に自分の唇を押し付けてくる。

こいつ!と思ったリッタはまたウィードに攻撃を仕掛けようとするが、それより早く唇が離れた。




「ねぇ、リッタ様。リッタ様にとったら俺の寿命は短くって、ペットみたいなものかもしれない。これまでの16年だってあっという間だったかもしれない。

でもね、俺にとっては長い時間で、その中でずっと、リッタ様が全てだった。きっとこれからも変わらない。

リッタ様のための剣と盾に成れたら、道端に転がっていた命でも意味が有ったって言えると思うんだ。」


まるでこのままでは自分に意味がないと言ってるようで、リッタは驚いた。

ウィードは続ける。



「俺をあなたのものにして。そうじゃなきゃ、この手で俺を殺して。」


そこまでの強い気持ちをぶつけられたことなんて無かったリッタは答える代わりにそっとウィードの頬を両手で包む。


水膜でゆらゆらと揺れるブルーグリーンから頬へ落ちる涙さえ美しい。



「お前は幼き頃からよく泣いたな。」


そう言って涙を親指で拭うリッタはウィードの大好きな微笑みを浮かべていた。

こんな時でさえウィードは見惚れてしまう。



「お前を殺せるわけがない。」


「…じゃあ、俺と結婚してくれる?」


ウィードはリッタの左手をつかむと、その手に口付けをする。

でももういつもの調子で、少しホッとして。

振り回されている、とリッタは思う。しかし悪い気はしない。



「イエスと言って。」


「…。」



自分の心に素直になれるほど、リッタの立場は簡単なものではない。

種族が違う、しかも勇者と結ばれるなど、誰が考え、誰が良しとするだろう。


煮えきらないリッタに業を煮やしたウィードはふくれっ面で問う。



「じゃあ誰が好きなの?誰なら良いの?」


「誰が好きって…。」


「あなたは魔王様だ。

あなたの中に子種を放つ強い伴侶は誰がいい?」


「勇者として有るまじき言動だ。」


リッタが嘆くとウィードの表情は剣呑なものに変わる。



「勇者?」

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