第36話

リッタとゴドフリーがティータイムを楽しんでからひと月以上過ぎたこの日、ゴドフリーが魔王城に訪れたのは、ディナーを共にするのが目的だった。



「ゴドフリー殿、申し訳無いが私は執務室に戻る。仕事を片付けねばならない。良かったら客間を用意しているから気兼ねなく使ってくれ。」


それはゴドフリーの宿泊の許可を意味している。

ゴドフリーは少しばかり呆けた後に尋ねた。



「宜しいのですか?」


「ふふ。婚約者殿を帰すわけにはいかないだろう。」


それは夜も更けてきたことに対するリッタの気遣いではあるが、ゴドフリーは二人の関係にもっと踏み込んだ許可だと認識した。



ゴドフリーは客間で待っていた。

リッタの部屋に案内されること、若しくはこのドアを彼女が叩くことを。


リッタ様ともうすぐ夫婦になるのか。ゴドフリーはベッドに仰向けて寝転がった。口元が緩む。


あの美しく気位が高い雌を毎晩良いように扱えると思うと堪らない気持ちになる。

早く自分のものを突き立てて誰のものか分からせてやりたい。

そう思うと興奮する。


しかし待てど暮らせどリッタとは会えず、業を煮やしたゴドフリーは執務室に向かった。



「どうして私を無下にするんですか!」


リッタは執務室にいた。

しかし先程とは違って白いナイトドレスを纏い、髪はゆるく右耳の下で束ねている。


寝支度を整えた彼女の姿に、興奮と怒りがないまぜになった一言だった。



「そんなつもりはないが。客間はお気に召さなかったか?」


「私がどれだけリッタ様を見つめていたか知っていたくせに!」


見当違いも甚だしいリッタの返答に怒りが増した。

ゴドフリーがリッタを手に入れたいと思ったのは100年以上も前だった。


リッタは顔を合わせる度に熱のこもった視線は感じていた。が、だからなんだというのだろう。そう思う。


お前が勝手に見つめてきていただけだって口で言わなければわかんないの?

リッタは黙って近付いてくるゴドフリーを見ていた。



ゴドフリーは歩みを止めない。ナイトドレスから出ているリッタの華奢な両肩を強く掴んだ。

リッタはため息をく。



嘲笑を浮かべてゴドフリーを見上げる。

興奮と怒りが入り混じった表情のまま、ゴドフリーはリッタを押し倒した。


いっそのこと下らない感情を忘れて肉欲に耽るのも良いかもしれない。

どうせ魔王わたしは想う相手と結ばれることはないのだし。


そう思った次の瞬間だった。



「え?!」


ゴドフリーの頭を閃光が貫く。

次の瞬間、ドゴォッと大きな爆発音がした。


思わず耳を塞ぎ頭を低くする。

反射的に爆発の衝撃に備えていた。


その光が誰のものか、リッタがわからないはずがない。

遂にこのときがきたんだわ。

リッタの鼓動が速まる。



「リッタ様の肌に触れるなよ。」


禍々しい魔力と怒りで魔王城の結界を破り外壁とゴドフリーを破壊したのは勇者ウィードだ。

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