ウィードとリッタ

第34話

■■庭と魔力



「リッタ様、もうすぐゴドフリー様がお見えになります。」


執事がリッタに新しい婚約者の来訪を告げる。

リッタは山積みのデスクからひょっこり顔を出した。


「そうか。執務室に通せ。」


「本日は晴天ですので庭園に出てみてはいかがでしょうか?ティータイムもガゼボでなさるのも宜しいかもしれません。」


「あぁ。ではそのように。」


執事に言われた通りに婚約者と談笑しながら庭園を歩いてガゼボでティータイムとする。

ゴドフリーは穏やかな雄でリッタはそこが気に入った。



「しかし立派な庭園ですね。」


「あぁ。ここも私の魔力に根を張って生きる薔薇たちは私の自慢だ。」


「魔力を養分にとは!さすがリッタ様だ。」


「薔薇の色は私の好みが反映されているが、城の結界も美しい庭の維持も魔王の魔力を拠り所にするのが慣例だからな。」


リッタは微笑んで庭園を見渡す。

シェルピンクやオーキッドの薔薇が美しく咲き誇る。


城は魔族の力の誇示のために美しく壮重でなければならない。

だから魔王で在り続けるには常に相応の魔力を要する。



この雄と結婚してノーブル家として、王として相応しい子供を生むのよね。

リッタはそっと視線をゴドフリーに向ける。


雄々しい角を持つ見目麗しい雄だ。

そして自分に好意を寄せてくれているともリッタは気付いている。


ゴドフリーはあまり魔力が高いとは言えないが

名家の出である点はリッタに相応しい。

結婚には申し分ない雄だ。



「私の婚約者はこれまで失踪、死亡、辞退している。」


唐突に口から出たことにリッタ自身驚きつつ、問わずにはいられなかった。



「そんな私と結婚するのは躊躇われないか?」


「確かに婚約者が命を狙われるという噂は有りましたね。

リッタ様がお守りくだされば安心でしょう。ははは。」


リッタの問いに答えたゴドフリーは朗らかに美しい顔で笑む。



「…そうか。…そうだな。私は魔王だ。お前一人守るなんて造作もない。」


リッタはそう答えた。



『俺があなたと結婚しようか?死にも辞退もしないよ。』


あんな言葉を当たり前のように吐いた男はきっと、私の魔力などあてにしないだろうな。


リッタは澄んだブルーグリーンを思い出す。


二人で出掛けた夜に決別して半年が経とうとしていた。


山賊一派の魔族や海峡で金品を奪い船を沈める魔族など、人間の暮らしを脅かす魔族をウィードたちは倒して旅をしていると報告はあがっていた。


二人はあれから一度も顔を合わせないままだ。



ウィード。リッタは小さく呟いた。

それはほぼ無意識だった。


ウィードの気配がしたような気がして、リッタは振り返る。

そこには誰もいなかった。

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