第32話
「どうして謁見の間に通したの?」
目を覚ましたリッタが謁見の間に到着するやいなやウィードが問うた。
玉座の真ん前に現れたリッタとそこよりも低い位置にふらふら立つウィードには今までよりもずっと距離がある。
さっきまで一緒に並んで歩いていたとは思えない程の距離を感じた。
酒が入ったウィードのほんのりと赤い顔が扇情的で、リッタは唇を引き結ぶ。
「私がそうしろと言った。お前は勇者だからな。本来なら敵である立場の勇者など謁見の間にすら通さない。」
リッタとウィードだから許されていた事だった。
しかし、前は通してくれたのにとウィードは不満げに呟く。
「そういえばまた新しい婚約したんだってね?」
「あぁ。魔王の務めだからな。」
リッタが来るまで執事と話して知った事を問えばあっさり肯定された。
二人で居たときはそんな事一言も言わなかったのに。
ウィードは面白くない。
「歯車か。残酷だな。」
ウィードにとって歯車論は悲しい理論だ。
勇者という歯車に成ったせいで、魔王リッタが手に入る要素が余計に減ったように感じられる。
その上自分にはアンジュか王女を宛てがわれるらしい。
でもリッタの為に歯車の一つになり、どんな遠回りでもいばら道でもリッタを手に入れるつもりだ。
なぜならリッタが好きだから。
「ん?何か言ったか?」
「ねぇ、リッタ様。」
ウィードはゆらゆらと歩いてリッタとの距離を詰める。
怒っているようで泣き出しそうなようで、殺気立っているようにも感じられる。
リッタは男の異様さを感じ、咎める事は無かった。
「うん?」
「俺は勇者だ。」
「あぁ。紛れもなく。」
「だから戦うよ。リッタ様の、…平和のために、この道にあるすべてのものを斬り捨てる。」
求められていると勘違いしてしまいそうだ。
赤く滲むような瞳は自分からの愛を乞うてるようで。
見つめられてリッタの胸が疼く。
「でも…、やることやったら投げ出しても良いかな?」
切なげに揺れるブルーグリーンにゾクリとした。
リッタは無理矢理口端を持ち上げる。
「もう泣きたい時が来たか?順調そのものだと聞いたのに。前の勇者はまだ骨があっ……」
リッタの声が途切れる。
ウィードが唇を自分のそれで塞いだからだ。
びっくりしたリッタの唇を舌先でこじ開けたあと思えば、ぬるりと侵入した舌で小さな口内を犯した。
後頭部を掴む手が大きくて容赦なくて、思考がままならない。
「何をす…っ…、ン…ん、ぅん…」
前の勇者にもこんな気持ちにさせたのか?
それとも
新しい婚約者とはもうそれなりのことはしてるのか?
私の根無し草ちゃんと呼んでくれないのか?
いろんな想いが言葉にならなかった。
酒も回っていたし何をどう話せば良いのかもウィードにはわからない。
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