第30話
魔族の店員に説明を受けて購入し、魔王城へ帰る。
後ろ髪を引かれて、少しだけ、今日の思い出を噛みしめるように歩いた。
その時、リッタの前方を見知った男が横切った。
「ウィー…」
ウィードと呼びそうになって口をつぐむ。勇者だとバレたら良くないだろう。でも今渡せる。
リッタはウィードの元へ向かおうとした。
しかしその足は止まる。
ウィードはアンジュと並んで歩いていた。
リッタに向けたあの優しい微笑みを向けて。
リッタは反射的に魔王城への転移魔法を使った。
魔力を使ったから、ウィードに気付かれたかもしれないが構わなかった。
良かった。
私は魔王。人間の男に何か思う事は不要だ。
自分が一つの歯車としてその立場を全うする歯車論を思い出す。
そうすると、少しだけ胸の苦しさが和らぐ気がした。
リッタにとって歯車論は須らく正しいのだ。それにリッタを守ってくれる。
そして、決別すべきときなのだと思う。
ウィードという名前は、リッタが古代語で根無し草を意味する“ダックウィード”から付けた。
名付けたのは、事実だからだ。
捨て子でもアバズレの子でも人殺しの娘でも、それが名前としてその子供に相応しいと思えば魔族は名前として付ける。
人間の感性とは違う。
根を伸ばし、豊かな大地に、美しい夕陽を見られる世界に根付けばいいと今は思う。
リッタは自室に籠もると魔術で誰にも入れなくした。
物理的にも術の類を使ってでも、入ろうとすれば身体に雷が走るようになっている。
リッタはウィードに貰ったねこのぬいぐるみを見つめていた。
「この子は……、ウィー。」
ウィードから貰ったし。
リッタは誰ともなしに言い訳した。
くまのテュック、うさぎのミーミィ、りすのロロとひつじのシフル、他の子たちにもウィーを見せる。
初顔合わせだ。
「ウィー。」
そしてウィードにしたかったハグをウィーにしたリッタはいつの間にか眠りについた。
「………………………ウィード……。」
リッタの唇から小さな寝言がこぼれて落ちた。
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