第29話

ウィードがデートと呼んだ二人の外出はあっという間だった。


地平線に夕日が沈んでいく。

世界が赤く包まれるような錯覚を覚えた。


勇者と魔王。二人はそれぞれの種族においては唯一無二であり、偉大なる存在だ。

種族の未来を背負って生きている。


そんな自分をちっぽけに思えてしまうほど、夕焼けが荘厳で、只々二人は並んで見入っていた。



もし世界が終わるとき、絶対的な瞬間を目の当たりにするのなら

リッタ様の横でこうして、手をつないでいたい。


二人で。二人だけで。

そう思ったとき、ウィードはリッタを見た。



「……お前の、浅海の瞳に映る夕陽はそんななのかと思って。」


リッタはウィードが目を向ける前から彼を見上げていた。

微笑むリッタに大きく鼓動が響く。


何かを言いたいのに、言葉が出てこない。

ウィードにはリッタに伝えたい事が山程有った。



「澄んでいてくれ。それだけが私の願いだ。」


その笑顔が美しくて、泣きたくなった。



当然のように送ろうとするウィードに、リッタは送らないでくれと頼んだ。


指を絡めた時、視線が重なった時、甘く微笑まれた時、低い声がリッタを思って言葉を紡ぐ時、夕日を見る横顔


リッタの中で確かにあった“私の子”という感覚が有った筈なのに、ウィードが今までと違う様子をみせるのに、とても心地好いと思ってしまっていた。


それがどういう感情かリッタには明確に判別出来ない。

しかし、一度油断すればウィードの全てを欲してしまいそうな自分を認めた。



「まだ時間は有るか。」


リッタは街へ引き返す。

モリーとメリーから手渡された人間界のコインが入った小袋を握りしめて。



魔道具屋に入る。二人で立ち寄ったとき、リッタは買いたい物が見付かった。

ウィードに渡したいのにずっと見守られていたせいで買えなかった。


目当てのものを手に取る。銀のネックレスだ。

透明のようで縞模様が入っている石が嵌められているそれは心身を健やかに、そして悪意ある魔術を跳ね除ける力があるようだった。


今日の礼に渡せなかった事を後悔している。

ウィードの方がよっぽど手慣れているように思えた。

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