第27話

「お前、ガイドの登録はしてるの?それとも変な気起こそうとした?」


禍々しい魔力がウィードから漏れ出ている。

男はそれに圧されて微動だに出来ない。


「ウィー…ディ!止めろっ。人が見てるっ」


ウィードと名を呼べば勇者だと気付かれるかもしれない。

そう思ったリッタは咄嗟に名前を変えた。

全くの思い付きだった。


ウィードは嬉しそうに目を輝かせている。



「ウィーディ!いいね!もう一度。もう一度呼んで。」

「い、嫌だ。」


「じゃあ聞けないな。いくらリッティの頼みでも。」


壁にへばり付いて離れない男と二人の男女を見守るいくつかの目に耐えきれなくなったのは、リッタだった。



「ウィーディ…。」

「分かったよ、リッティ。」


いやぁぁぁぁぁ!!

リッタは叫び出したくなった。

なんだか馬鹿っぽい気がして恥ずかしい。



ウィードの禍々しい魔力から男を開放したリッタは溜め息を吐く。



「ごめんね、リッタ様。一人にしちゃって。」

「リッ…ティと。私が店を出たんだから謝るな。凹むな。」


「あなたに何か有れば俺はこの街を滅ぼしても足りない。」

「物騒な。」


「俺にそれだけの力が有ることは気付いてるはずだよ。」


そのとおりだった。

ウィードは旅の中で剣術もかなりの上達をしたし、魔力はそこら辺の魔族よりずっと高い。

人間か疑いたくなるほどだ。

書庫に籠もって魔術を体得していた事も知っている。


それほどまでに褒賞を、アンジュを得たいのか?

リッタはそう思い至ると、胸がチクッと痛んだ。



「お前の研鑽には感服してるよ。」


「感服かぁ。そっかぁ。」


強い雄を求めるなら、俺を候補に入れてくれたら良いのに。

そしたらリッタ様が夫に望む事を全て叶えるのに。

リッタ様は感服って言葉で片付けちゃうんだ。


苦笑いをしたウィードは手を伸ばした。

リッタはそれに手を添える。



「リッティ、お腹すいた。」

「あそこにレストランの看板があるな。」



それぞれの気持ちから目をそらし、二人はレストランに入った。

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