第25話

ぬいぐるみの店屋は所狭しと色々なぬいぐるみが並べられていた。

リッタは目を輝かせている。

それを見てウィードはデレデレと頬を緩めた。



「悪くない店だ。」


リッタは嬉しさを押し隠すように言うけれど、ウィードは彼女がぬいぐるみが好きな事を知っている。

だけどそれを悟られないように“女の子に人気の店”とだけ言った。



「白いうさぎ、俺にくれたよね。」


ウィードはぬいぐるみの一つを手に取るとそう呟いた。

リッタは自室に置いてあるうさぎのミーミィの事だとすぐに思い出した。



「あぁ。覚えてる。」

「でも……俺大切にしてたのにいつの間にか居なくなってて。」


「あれなら私が持っているぞ。」

「え?」


「お前が確か城で落としたんだ。お前が13のときか。そんなもので遊ぶ歳でもなかったからな。」


リッタはウィードに一瞥もくれずぬいぐるみをそっと撫でたり覗き込んだりしている。



「言ってよ。城中ずっと探したんだから。」

「悪かったな。」


「ううん。俺の方こそごめんね。大切に出来なくて。」


「ふ。成長とともに興味が移ろうのは悪い事ではない。いつまでも幼子のおもちゃで遊んでいては逆に心配になるから、良かったんだ。」



うさぎのぬいぐるみ・ミーミィはウィードがどこに行くにも連れ回していた。大分汚れてしまったが、リッタは自らの手で丁寧に洗った。

魔王のすべき事ではないから洗わせてほしいと侍女たちに懇願されたのを覚えている。



リッタは店のどの子も連れて帰りたいと思った。

しかしウィードの前でぬいぐるみを買うわけにはいかない。


また一人で来ようか。暫く真剣に眺めながらそう思った。

そんなリッタの頬にふわっと柔らかいものがそっと押し当てられる。


ふわふわのクリーム色にブルーグリーンの目をした猫のぬいぐるみだった。



「あのうさぎに似てる子は居ないけど…。リッティに買ったんだ。」


目を丸くしたリッタはウィードを見上げる。

毛の色も目の色もどこかウィードに似ている。

自信なさげなウィードに胸がきゅっと締め付けられる気がした。



「貰おう。」


リッタがウィードから受け取る。

ウィードは目を輝かせて頷いた。

それを見たリッタも破顔した。



「お前がくれたからな。大切にするよ。」


ぎゅっと抱き締めたぬいぐるみの目がキラキラと輝いた事にリッタは気付かなかった。

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