第24話

ウィードの滞在しているポートランダの街は海鳥が鳴く声と朗らかな喧騒で包まれている。


人間と魔族の警備隊が所々にいるので色んな人種や魔族が集まっても平和を維持していた。


髪の色も目の色もここでは関係無いのに。

ウィードは少し残念に思った。


アンジュやケイネスには説明が面倒だけど、ありのままのリッタと歩きたかった。

説明に納得できなければ葬り去れば良いのだ。


今のリッタは美しいお嬢さんにしか見えない。

ウィードには全ての男や雄が敵に見えてくる。


“私が魔王と分からないとしても、勇者が魔族と歩いていたらおかしいだろう”

デートの条件として、リッタの言い分を呑んだ。



「ねぇ、今気付いたんだけど、これってデート?」

「お、お前が強引に連れてきたんだろう!」


リッタが珍しく慌てた。

魔族のリッタが紅顔したりはしないが、照れているのは分かる。

ウィードはにんまり笑って、リッタの手を取る。

指と指とを絡めるように繋いだ。



「お前は自由だな。」

「今日は勇者を休んでるし、リッタ様も可愛くてきれいなお嬢さんにしか見えないから魔王はお休みだね。」


リッタは呆れたように笑う。

手は離されなかった。



二人で話していて、リッタは様を付けられている事に気付いた。


モリーとメリーとで人間の街を歩くときは決まっていることがあった。


それは外見を人間のそれにすることと



「リッティと。」 

「え?」


「リッティと呼べ。」


呼び方を変える事だ。

出会した魔族が魔王リッタだと気付いたら厄介だからだ。



「な、何を笑ってるんだ!これはモリーとメリーが付けてくれたんだからな!」


「いや。…ふふ。可愛くて。」

「か!可愛いってなんだ!」


「…言われたこと無いの?」

「……昔親からなら有る。」


「魔族の雄とか…あの、人間の男とかは?」

「は?」


あれ?なんか空気変わってないか?

リッタは内心思う。



「有るの?無いの?どっち?」

「…無くて、悪いか。」


「悪いわけ無いよ。あぁ、そっかぁ。」


あ、こいつ物騒な事を考えてるかも。リッタは直感的に思った。

ウィードはまた朗らかな空気を纏っている。



「可愛いよ、とっても。リッティは。」

「お前!からかってるだろう!」


「ねぇ、リッティ。あっちにぬいぐるみの店が有るよ!」



今日のリッタは振り回されているが悪い気はしなかった。

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