第23話
ウィードを執務室で待たせ、リッタは自室で着替える。
モリーとメリーを呼んで手伝わせた。
「リッタ様、御髪はどのようにいたしましょう?」
髪飾りのケースを開けながらモリーが問う。
メリーにワンピースを着せてもらうリッタは顔だけケースに向ける。
「この服に合うだろうか?」
「どれも庶民の服には合いませんねぇ。」
メリーが口を挟むとモリーは頷く。
ダイヤの輝く金のティアラもサファイアの髪飾りもワンピースには似合わない。
「では要らん。」
「せっかくのお出掛けですのに。」
「お出掛けといってもウィードに連れ回されるだけだ。…なんだ?」
「…いえ。楽しそうなリッタ様は久方振りですので。」
「これのどこが楽しみに見える?……人間の街が楽しみなのは認めるが。」
モリーとメリーは顔を合わせるが何も言わずに微笑んでいた。
ウェーブがかっている紅茶にミルク足した色の髪をハーフアップにしてもらい、ワンピースに合わせた白い靴を履いたリッタがウィードの前に立つ。
ウィードもゆったりした白いシャツと紺のズボンに着替えていた。
シンプルな装いだが顔も身体も整っている彼を引き立てている。
「…え?なんで角と肌の色が違うの?」
呆然と眺めていたウィードが開口一番に発したのはそれだった。
メリーとモリーは同時に舌打ちした。
ウィードの肩が震えた。
人の肌の色をしているリッタは大人の女性へと移り変わる可憐な少女のようで
そんな可愛くて可愛くて美しくて色っぽいと男に狙われる!そう思うのだ。
しかしウィードの心の内などリッタは知らず。
「魔族のままでは目立つだろう。」
「良いのに。」
「良くない!お前は勇者としての自覚が…」
ウィードが大きくリッタとの距離を詰めたせいで、少し驚いたリッタは言い切る事が出来なかった。
「その口ぶりだと、前の勇者は違ったの?」
ウィードは更に近付いてリッタに影を落とす。
リッタは意味が分からずただ見上げていた。
「死んだ男の事は思い出さないで。」
「なんで。」
「死んでいたら消せない。」
「……またお前は物騒な。前の勇者を思い出した訳ではない。行こう。お前が案内してくれるんだろう?」
勇者はチョロいので機嫌がすこぶる良くなった。
ウィードの切なげな表情に少し戸惑ったリッタだが、ウィードの扱いは慣れたものだ。
「そうだ。」
ウィードはポケットに手を突っ込み中のものを取り出す。
「これで完成だ。」
「……ん。」
ウィードは優しくリッタの耳の上に白いラナンキュラスの髪飾りを差した。
リッタを見下ろすエメラルドグリーンが甘く笑む。
リッタは胸の高鳴りに気付かないフリをして頷いた。
どこでそんなことを覚えたと思っても、軽口を叩く事は出来なかった。
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