第18話
「エケアノ、また来たのか。恥知らずな事だ。」
この雄はリッタにプロポーズをしているが、あまりにも格差が激しい為にあっさりと断った過去がある。
「で?そこに居るのは出入り業者を装ったお仲間か?」
床からなんとか頭を引き剥がして見れば、エケアノの後ろには4人ほど居るようだった。
「察しの良い雌は嫌いじゃねぇぜ。」
「生憎私はお前が嫌いだ。虫唾が走る程度にはな。プロポーズを断ったのは10年前だ。忘れるには早すぎるぞ。」
肘でうつ伏せる上体を支えながら嘲笑う。呼吸が苦しいがおくびにも出さない。
そんなリッタに向けられたのは、エケアノたちの品のない笑声だった。
「リッタ・ノーブル。恥ずかしい勘違いだな。その逆だ。死んでもらう。」
全くだ。前半には同意する。恥ずかしい勘違いらしい。しかし後半は受け入れられない。
「…私を殺して、何がしたい?」
どんな野望が有るのだろうか。リッタは問う。
この反逆に相応の理由が有って然るべきだ。
「魔王の座をもらうに決まってる。」
「魔王の座は常に狙われている。お前たちにその覚悟は有るのか?」
リッタを狙うものは、彼女に単体では敵わない為に大抵が複数だった。その度にこの決り文句であざける。
“寄ってたかって奪った玉座でも人数分には分けられんぞ。”
そうリッタが口を開くより先にエケアノの背後の雄がリッタを笑った。
「他にお前に何があるんだよ?小娘が。」
決り文句と化している言葉を口にしようとしたいたリッタは思わず二の足を踏む。
私に他に、何があるんだろう?
歯車論で奮い立たせてきたこの地位以外に。
……あーぁ。痛いところ突かれたな。
エケアノ達が何かを言っていたが頭には入ってこなかった。
リッタは思わず苦笑いしてしまう。
リッタは身体が動かない。
これは計画的な謀反だと理解した。
全幅の信頼を寄せていた料理長もグルだろう。
ウィードが私に会いに来ないはずがないんだもの。
考えれば…考えなくてもわかることなのに。
しかしその事に思い至るまでが遅すぎたとリッタは思う。
同時に、今にも攻撃を仕掛けて来ない魔族の雄共の腑抜けぶりに情けなさと違いすぎる力量を感じた。
「私には、お前たちを、…一瞬で皆殺しして余るくらいの、魔力が有る。」
「ハッタリかます余裕は有るみてぇだな。おもしれぇ。散々
「はぁ、はぁ。…王術……」
リッタは無理矢理身体を起こして立ち上がる。
エケアノも他の魔族たちも膨大な魔力を放出するリッタに立ち竦んでいた。
よろけながら立っているのがやっとのリッタの身体から黒いモヤが滲み出る。
王にのみ許された秘術の一つだ。
リッタは腕を頭上にのばして掌を天へむけた。その腕を這い上がるように黒いモヤは集まり、膨れ上がる。
黒いモヤの塊に紫の昏い光が渦巻いた。
地面に付してしまいそうな程の圧が魔族たちに掛かる。
立ち込めるリッタの魔力が呼吸をままならなくした。
「天壌無窮」
リッタが呟くと黒いモヤの塊は指先からゆっくりこぼれ落ち、地面に広がり闇と化した。
リッタの呟きを耳で拾ってから指先一つ動かせなくなっている魔族たちは闇と紫の光の粒が足元を染める様を見ていることしか出来ない。
「私が治めるは永遠なる世。」
婉然と言い放つ頃には、闇と紫の光が魔族の身体を這い上がり呑み込んでしまっていた。
呑み込んで魔族の背丈まで有った闇は音もなく地面に沈んでいく。光が踊り跳ねながらリッタの足元に戻って消えた。
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