裏切りとリッタ

第17話

ウィードが勇者として旅に出てからちょうど半年が経った夜だった。



「リッタ様。お茶をお持ちしました。」


執務室で書類に目を通していると執事が部屋に来た。

リッタはデスクに置かれたティーカップを一瞥する。



「ご苦労。もうここは良いから帰ってやれ。今日明日にも子供産まれそうだと言ってただろう。」


「有り難うございます。お言葉に甘えて。そちらはトライギスの茶だそうです。ウィード様がお持ちになったようですね。」


「あいつが来たのか?私のところには来なかったぞ。」


「急いでおられたのかもしれません。ラコクが受け取ったようです。」


ラコクは数十年勤めている魔王城の料理長だ。

ウィードから受け取り茶を淹れてくれたらしい。



「気を回すようになったか。」


いつも手ぶらでひょっこり現れるウィードを思い出し、頬が緩む。

リッタはトライギスのお茶を口に付ける。

芳ばしい中に苦味を感じるその味はあまり好まないが、ウィードからの物は好ましい。


執事とニ・三言葉を交わしたあとは広い執務室にリッタひとりきりになった。

暫くしてペンを走らせる音が止まる。



「あぁ、これは。」


呟いたリッタは苦々しい気持ちになる。


リッタの身体から力が抜けていく。グラングランと天井が周って見える。リッタは浅い呼吸を繰り返しながら椅子からずり落ちて床に崩れた。


冷たい床に頬がつく。魔王であるリッタのこんな姿は誰にも見せられない。



「良いザマじゃねえか。」


太い腹を揺らして入ってきたのは、前魔王に仕えていた大臣の息子・エケアノだった。


大して能力もなく職を転々としている雄でリッタの3倍近く生きている。

親の顔を立ててやる為に仕方無しに魔王城での雑用を任せていた。

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