第16話

『リッタ様と結婚出来るのに裏切ってるのは凄く腹立たしいけど破棄さえしてくれればもう良いです。

それよりその汚い手でリッタ様に触れましたか?』


『触れ…?てない!触れた事は一度も無い!』


『ふぅん。まぁ婚約破棄はしてもらいますよ。破棄があなたにとって一番大きなメリットだ。』


俺があなたを殺さない。


そう理由を付け加えて、何も持たない右手を上から下へと一振りする。

直後閃光が空を走り、ごとりと鈍い落下音がした。



『こんな風に、腕も削がれない。』


『てめぇぇぇぇ!!』


血がしぶく肩を慌てて抑えたダロタスは尻もちをついた。



『結婚したらリッタ様の肌に触れると思うとつい。』


そう言いながら落っこちた右腕を拾い上げてダロタスの左手に手渡す。



『やめ、やめろっ。やめてくれ!』

『え?くっつけない方が良いですか?』


後ずさろうと身体を動かすが思うように動けないダロタスに構わず、ウィードは治癒魔法を掛けてやった。


柔らかな黄色い光が落とされた腕と肩とを、そして耳と顔とを包む。吸い寄せられるようにして身体の一部は元の場所へ戻って傷が塞がる。

やがて光が小さくなり消えた。


泡を食ったダロタスは、はっとして耳を触り、右腕が回復した事を動かすことで確認し、頭を床に着けた。



『頼む!命だけは!い、いい、言うことは聞く!婚約は破棄する!破棄するから!』


温度を感じさせない眼に見下されてつばを飛ばしながら命乞いをした。


命を奪わない代わりに婚約を破棄する。

ウィードが関連したことは一切口にしない。

そう約束した。


『今回は話が分かる方で良かった。』


『……陛下の婚約が上手くいかないのって…いや!いや!何でもない!』


呟いたダロタスは慌てて叫び続けた。

遠浅の海を思わせる穏やかなエメラルドグリーンが三日月のように細められる。



『この顔と、この声を。よく覚えておいた方が良いですよ。』


ウィードは少し顔を近付けてそう言うと、その長身を包む光とともに消えた。

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