第15話

「なんだ。お前が以前くれた、…リンゴ?みたいだな。面白い。」


くつくつ笑うリッタは腕を組む。

笑みを浮かべる瞳にドキドキしてしまう。


思考がバレていたらどうしよう。恥ずかしいな。

あぁでもリッタ様なら良いか。笑ってる可愛い。

もうウィードには手籠にしようなんてハイレベルかつ物騒な手段は頭にはない。


この勇者はちょろいのである。



「愛いだけの幼きままのお前では困るよ。お前は独り立ちした私の根無し草ちゃんだからな。」


リッタが言うので、ウィードはそっかと思った。


そして、昨晩時間的な無理をしてダロタスのもとに出向いたのは正解だったとウィードは頬を緩ませた。




昨晩。リッタの婚約者であったダロタスは自分の屋敷の主寝室にいた。

半月が雲に隠れた瞬間、月明かりを失ったタイミングで部屋は陰り、闇と共ににウィードが魔術で入り込む。



『こんばんは。ダロタス様』


ダロタスが初めて聞く声に反射的に振り返る。すると目の前に若い人間の男が立っていた。



『きゃあぁぁ!な、なに?!なによ!人間じゃない!』


直前までダロタスの首に腕を回して濃厚な口付けをしていた魔族の雌が叫ぶ。が、ウィードは一瞥もくれずにダロタスを見ていた。



『お願いが有って参りました。』


『結界は?!護衛は…?!どうなってる!…お前まさか勇者か?!糞!卑怯な真似をしやがって!』


『警護には寝てもらいました。結界は弱すぎるので、ちゃんとした方が良いですよ。突然訪問した非礼は詫びるので、お願いを聞いてほしいんです。』


『おい!なんだっ?魔術が…』


両手を見て辺りを見回す。

魔術が使えないことに驚いているらしい。

魔族の雌はひっきりなしに叫んでいた。



『リッタ様との婚約を破棄して下さい。』


『何をしやがった?!糞!なんで!』


『リッタ様との婚約破棄を…』


『お前!こんな事をして唯で済むと………へ?』


突如耳から垂れる生温かい液体の感触に触れたダロタスはその手を見て目を疑う。

同時に魔族の雌はつんざくような叫び声をあげ、慌てて逃げ出した。



『聞こえない耳なら無くても変わらないでしょ。』



たじろぐダロタスに構わずウィードは穏やかな声で言った。


切り落とされた耳がダロタスの足元に転がっていた。

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