婚約者と訪問者

第13話

「そなたが婚約を破棄したいのは理解した。理由が知りたい。」


魔王城の小応接室。部屋の中央に設置された応接セットでリッタはすらりと長い脚を組む。


優美な曲線に目を一瞬奪われていた彼女の婚約者・ダロタスは慌てて口を開いた。



「え。……あ、あ…。わた、私には!荷が重いのであります!」


なんちゅー口調だ。と言いたくなった。

言わない代わりにため息をつく位は許されるべきだろう。



ダロタスは太い上向きの角を持つ身体の大きな魔族だ。

豪傑で虚栄心か強くなく、一人称に“私”を使うような雄ではない。


しかし仕方がないのかもしれないと思い直す。

結婚適齢期を迎えているリッタが婚約から先に進めないのはこれが初めてではない。



「…分かった。」


「よ、宜しいのですか?あ、いや!宜しくお願い申し上げます!へ、陛下から破棄をなさった事に…」


「そうだな。それくらいはさせてもらおうか。」


口調がおかしいが突っ込む気にもならず、適当に返して二人の婚約は解消に向かう。

部屋にひとりの残っているリッタはソファに寝転んだ。



「失礼します。ウィード様がいらっしゃってますが…。」


ノックの後に続いた執事の報告に返事をして執務室に向かう。

会いたくないような会いたいような、なんとも言えない気分だった。



「勇者殿は暇人か?」


「忙しいよ。あなたに会うためには理由をつけて一人になる必要が有るからね。」


久方振りに会う二人はウィードが魔王城に住んでいた頃の様なやり取りだった。



「…ふふ。」


「俺おかしな事言った?」


「いや。ダロタス殿のように離れたがる者も居れば、こうして会いたいという者も在る。どちらも私であることには変わらないのに、なんだか不思議だと思ったんだ。」


婚約破棄されたばかりのリッタが柔らかく微笑むことが出来るのは、ウィードが来てくれたおかげだった。

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