第12話

「叩かれる夢です。ただひたすら、ひたすら叩かれたり蹴られてました。起き上がれば叩かれて、起き上がる気力と体力が無くなったら蹴られたり引きずり起こされて叩かれる。……もしかしたら、記憶なのかもしれません。」


カサカサと木の葉が揺れる乾いた音がする。

アンジュは悲しそうな顔でウィードを見ていて、気付いていながらも焚き火を見つめていた。



「でもそんな時は必ず優しい腕に抱き上げられて、穏やかに声が掛けられて

俺ははじめて存在を許されたような気持ちになるんです。」


ポツリポツリと呟いたウィードは言葉を紡ぐ。

自分を拾ったがために人間の育児書に眉間にしわを寄せて読んでいたらしいひとを思い出す。



あぁ、時間を無駄にできないな。

ウィードは勇者として、リッタのもとに向かわないといけない。強くならないといけない。


魔力を練り上げる意識をする。

それがウィードに今できる唯一のことだ。


それは段々太く、大樹のように根を張り幹が太くなり、枝分かれし広がっていくように。


そうやって意識をし、呼吸を整え、力を込める。

汗が滲む。頭が体が熱くなる。鼓動が響く。

魔力を高めるトレーニングだ。


息苦しく新鮮な空気を胸いっぱい吸い込みたい衝動と内側の熱に胸を掻き毟りたい衝動と

頭が重く熱くなって叫び出したい衝動と。



耐え続けて限界を超えると倒れたり吐血する。

そうすると自分で治癒魔法を施しまた一からやり直す。


それについてリッタには散々怒られたが、近頃は諦めたらしい。

程々にしておけよとだけ言って頭を乱雑に撫でてくれる。



このトレーニングは朝晩欠かさず行っている。

そうして得た魔力はかなり強い魔物にも劣らなくなったし

魔王城の書庫で引きこもって学習した魔術も体得している。使い所が分からないものも、禁忌とされているものも。


すべてはリッタの為に。

リッタの歯車論が正しいと証明する為に。



ウィードは全ての意識を内側に向けていたので、隣でアンジュが何かを言っていたことにも眠り落ちたことにも気付かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る