ウィードと旅
第8話
勇者としての旅の目的は、人間の暮らしを脅かす魔族を倒して魔王を討つ事だ。魔族の社会を人間の管理下に置けば、人間の安寧は保たれるのだという。
それがなせるのは選ばれし勇者ただ一人。
人間の暮らしを脅かす魔族を倒す→魔族との戦い方を身につける→魔王を倒す
なんとも雑なものだった。
魔王についての言及もあった。
北の最果て、寒く植物の乏しい土地にそびえる漆黒の城を根城にする魔族の長。15年程前に代替わりしたらしいが醜悪な容姿をしているのだという。
あ、魔王を見たことないな。ウィードは思った。
リッタはどんなときも麗しいのだ。
黒い角にラベンダーみたいな色の肌だって、物心ついたときからそばにいるウィードにとってみれば、触れて、出来れば舌を這わせたり痕を残してしまいたい程に蠱惑的だ。
肌の色を人間と同じにして角が見えなければ、リッタ様の評価は180度変わるに決まってる。
ウィードは見たこともないのにリッタを貶したものは全員、魔術で追跡して炭にしてやろうかと一瞬本気で考えた。
面白くもないし間違っている情報を与えられていよいよ旅が始まろうとしていた頃のこと。
「本当に、ですか?」
オスカブルグ城の会議室に連れてこられたウィードは支給された装備品を前に立ち尽くしていた。
「…はい。申し訳ありません。」
謝ってほしいわけじゃないんだよなぁ。
そう言ってしまおうかと思うがぐっと堪える。
腰には伝説の剣。
青い宝玉が埋め込まれた柄も鞘も100年誰の目にも映さなかった銀の刃も戦闘に使うには不相応に思えるほど美しく、荘厳さを纏っている。
しかし支給される装備品はというと。
旅人の着る丈夫な生地でできた質素な生成り色の服だった。
防御力を度外視したら眼の前の職員の方がまだ質が良い服を着ている。
剣も見目麗しいウィード自身にも全くもって不釣り合いだ。
「これ、おかしいよね?おかしいでしょ。国守れって言ってこれだよ?」
「我が国で用意できるのは、旅の費用とこちらの装備品、生活用品が精一杯なのです。」
「王様のあのギラッギラの10本指見たことない?あの指一本落として要らなくなった指輪売れば?」
「そそ、その様はご発言は、お慎みください!」
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