第6話

■■秘密と輪郭




「ただいまー。」


ウィードは旅をしていても時折魔王城に帰ってくる。

といってもリッタの執務室だ。5歳位までは一緒に寝たりもしたが、それ以降は自室には入れていないし、入れられない。



「おい。ここに帰ってきて大丈夫なのか?仲間たちが不審がるだろうに。」


「大丈夫大丈夫。宿で絶対に部屋の中覗くなって言って開けられないように魔法かけといた。」


「全く。魔法をそんなことに使うんじゃない。」


「こんなことに使うために覚えたんだよ。」


この子は幼い頃から異常なまでに勤勉だったな、とリッタは思う。

そしてその努力が無駄にならないほどに魔法の素質も有った。



「ねぇ、リッタ様。」


美しいエメラルドグリーンが昏い火を燈している。

鼻につくような血の匂いをさせて近付く。


戦闘で興奮しているのだろう。

そして、滾っているのだろう。


命をかけて戦うとは、そういうこと。

リッタはソファの上で近付くウィードを黙って見上げている。



「…抱っこして。」

「そんな歳じゃないだろう?」


「どんな歳でもあなたに抱かれたいよ。」

「全く。」


膝を着いて腕を伸ばしたかと思えば、力強い腕がきつくリッタの身体にまわる。

抱きすくめられているのはリッタの方だった。


襲いにかかるかもとは頭に過ぎったけど、…我慢したっぽいなぁ。


リッタは頬を無意識に擦り寄せた。

それがウィードの我慢をすり減らすとは当然考えない。



「リッタ様の腕の中は落ち着く。」


「……。」


「俺の輪郭が定まる気がするんだ。」


純粋なウィードが魔王に育てられた過去や魔王城での居住を隠して魔王討伐に身を置く。

アンジュを褒賞で娶る事を隠している。


自分に隠していることに対して怒りや猜疑心が全く無いといえば嘘になる。

でも大切にしてきた私の浅海を濁らせたくない。

たとえ私を殺そうとしても、根無し草ちゃんになら許してしまうかもしれない。



「なんで勇者の剣を抜いたかねぇ。」


こうなるとは分かっていたはずだ。お互いに。


リッタの呟きにウィードは答えなかった。

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