第4話
「で、ですが王は魔王討伐、ひいては魔界侵略のあかつきに高位魔法使いのアンジュとやらを褒賞として妻にすると。魔王様がお育てになったとはいえ、欲深き人の子が靡かないと言い切れるかどうか。」
「…ウィードの妻に?」
アンジュは魔族すら見惚れる絶世の美少女、そして高位魔法使いだ。
鈴を転がすような声音で語る全ては春風のように優しく澄んでいるという。
旅にも同行し、少し離れた安全な場所から戦う勇者に治療や攻撃力の増進などサポート魔法を駆使するのだと説明を受けた。
そして旅の同行はアンジュ自らの意志であるとも。
「100年前、前勇者と共存の道を選びこの魔界が豊かになったのを忘れたとは言わせん。それを成し得たのは誰か忘れたか?」
それはリッタ本人だった。
ギックリ腰で伏せられていた父でもある前王の代わりに提案して成し得たのだ。
共存の道を選び、農作物の作り方を知った。
魔族の種類によっては毒になるものも有ったが、栄養価が高い植物を育てて食べることで健康的になった。
人間に近い感覚をもつ魔物は人間と同じ土地で暮らすものもいる。人間にはなし得ない力仕事を得意としたりするのだ。
中には魔術を使い占いや魔道具の製作販売をしているものもいる。
人間と魔族は持ちつ持たれつの関係にあると言っても過言ではない。
「今回も上手くいく。私の傀儡が女にうつつを抜かして剣を向けるわけがない!
それに新しい術も完成した。その身に受けたなら伝説の勇者とて自分の血で濡れた床を這い、無様に命乞いをするだろう。」
勇者が来たら、100年前同様に平和条約を結ぶ。
勇者が戦う意思を見せたら、魔王様の新しい技でフルボッコで。
そう決まった。
しかし魔王の表情は曇っていた。
アンジュが同行するなんて、ウィードは何も言っていなかった。
何故だ?
下らない書類の話はしたのに。何故アンジュを妻に迎えると言わなかった?
もう恋人同士なのか?
……なぜ胸が痛む?
リッタは唇を噛む。
「リッタ様、30分後に宰相とお打ち合わせが…」
「少し待たせておけ。」
執事を一瞥し、リッタは自室に戻った。
鍵をかけてベッドへ一目散。そしてダイブする。
「あーぁ疲れたよー!もう疲れたー!」
リッタは思いっきり口調グズグズでテュックと名付けたキャラメル色のくまのぬいぐるみを抱く。
「ミーミィも聞いてよ。みんなうるさいし最悪なの。」
ミーミィと名付けた白いうさぎも抱く。
他のぬいぐるみに手を伸ばしかけて、起きるのが辛くなるからやめた。
「…寂しいなぁ。息子が取られたような気分ってこのことかなぁ?」
リッタはぎゅっと2つのぬいぐるみを抱き締めた。
こんな姿を知っているのは侍女を勤めるモリーとメリーだけ。他の誰にも見せられない。
なぜならリッタは魔王だから。
口調は板についているが、本当はこちらが素だ。
自分の立場を理解していた幼き日から、可愛いものが好きな事も口調が女の子のそれなところも誰にも見せていない。
婚約者にすら。
リッタは抱き締めたまま、広いベッドに倒れる。
ふかふかのベビーピンクのコンフォーターもシーツも侍女が用意してくれている。
この部屋が可愛いパステルカラーのもので揃えられているのも、二人の侍女のみが知るところ。
リッタは目を閉じた。
ウィードは私の手を離れるのね。
なんとも言えない寂しさから目を逸らせようと、ウィードとの出会いを思い出す。
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