第2話

「大体、俺があの小屋に住んでるって虚偽の身分証明書がまかり通るんだから世も末だよ。」


あの小屋というのは山間にこしらえたウィードの書類上の居住地だ。

ウィードがリッタの家に住まわせてもらっている事は明かせない。



「大げさな。本当の世の末は魔王が世界を滅ぼす時だろうに。」


「孤児が一人で小屋で生まれ育つなんて馬鹿馬鹿しい話を感動物語よろしく広めちゃってさ。」


「ふふ。今度の勇者様は苦労人なことだ。」


リッタは楽しげにウィードのグチに反応する。


あぁ。大好きだ、リッタ様。

俺を拾って育ててくれたひと。


ウィードはうっとりとリッタを見つめた。



“未来の勇者が落ちてたら拾うに決まってる。”


今みたいにソファに寛いで酷薄な笑みを浮かべたあのときのリッタを思い出すだけでウィードのあらぬところが昂ぶる。



「リッタ様、もうすぐ会議が。…ウィード様、おかえりなさいませ。」


ウィードに事務的に言うリッタの執事ドルドは、リッタを議場に急ぐよう促す。



「じゃあな、勇者殿。」


リッタはウィードのほっぺにキスをしてご機嫌に自分の執務室を後にする。


ポツリと残されたウィードはソファにひっくり返った。

本当に手続きで気疲れしたからだ。


それと驚くフリ。


本当は自分が選ばれし勇者だって知っていたし、そんな素振りをする必要は無かった。

全てはリッタの為だ。



「じゃあな、だって。あぁ。可愛すぎて今ので3回ヌけるよ、リッタ様。」


少女のようなあどけない微笑みを思い出して陶然とと呟いた。

頬を洗いたくないと思った。

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