第32話

「りっちゃん見て!どっちが良いかな?!」


3人の帰り道、なっちゃんは私にスマホを見せてくる。アウターの色で迷っているらしい。



「帰ったら見るよ。」

「今タイムセールなのに。」


早く決めたいのだろう。しかしそこにメッセージが入ってきた。



「カズホヤバ!別れたって。りっちゃんごめん。」


なっちゃんはメッセージを開いて読むと、返信を打ち始めた。

タイムセールよりカズホちゃんの心配をするなっちゃんからさりげなく松尾くんの隣に行く。



私の手は柔らかく包む熱を感じた。


松尾くんの手がただぶら下がっているだけの手に重ねられて、柔らかく握られる。


前を歩いてスマホを打つなっちゃんは気付かない。


交わした言葉は少なかったけれど、なんだか二人だけで歩いているみたいだった。

まだまだ着かなくて良いなんて思ってしまう。



「あたし先に入ってるね。」


家に着くと、なっちゃんは松尾くんに丁寧にお礼を言って玄関へ入った。ドアが閉じてから私は口を開く。



「なっちゃんのこと、有り難うございました。」

「俺も楽しかったです。」


「でも失礼な事を言っちゃったし…。」

「全然。失礼とは思いませんでしたよ。それに色々言われなれてるんで、気にならないんです。」


「色々?」

「こないだ同窓会で、『いつ売れんだ』『コドオジ予備軍じゃん』『さっさと売れて俺の結婚式でマリッジソング弾き語りしろ』です。みんな言いたい放題です。」


「まだデビューの話は…」

「してないです。」


「書き下ろしで弾き語りなんて豪華な余興ですね。」

「お前芸能人かよって言いました。」


二人で笑って、それもおさまって

松尾くんの真っ直ぐな瞳に目が離せない。

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