第30話

「良かったら、3人で行きませんか?居酒屋はまた今度で。」

「良いんですか?」


なっちゃんが間髪入れずに聞き返した瞬間、それは決定事項となった。


初めて入るというハンバーグ専門店に松尾くんが喜んで胸を撫で下ろしたのも束の間。



「あ、松尾さん出てきますね。松尾静寂って字だけ見るとお坊さんっぽくておもしろー。」


松尾くんについて検索していたなっちゃんは、本人を前に言っていいのか分からないような際どいことを言った。


松尾くんが自己紹介が苦手だと言ったから調べる事になり、注文を済ませたなっちゃんはスマホの中から松尾くんを知っていく。



「へぇええ!あ、電話。ちょっとすみません。」

「なっちゃん、電話なら…」


なっちゃんは私の言葉に頷きながら親指を立てて席を外そうとする。けれど立ち止まった。ジュースが運ばれてきた。



「え?ヒロロン知ってんの?そう。有名?」


なっちゃん本当にやめて。本人目の前で失礼すぎる。袖口を引っ張って頭を横に振った。



「……へー。そうなんだー。わかった!ばいばーい。

松尾さん、すごい人なんですね!」

「本当に失礼だよ。怒るよ!」


「りっちゃん怒っちゃやだ。今のコ、次に出てくるアーティストの音楽フェスから推しを見付けるのが趣味なんですけど、」


「面白い子だね。」


「そう。ヒロロン面白いんです。そのコが、松尾さんは何度か出てるって言ってました。それと音楽アプリで素人なのに音楽再生回数何ヶ月も1位だったんだって。」


「ヒロロンすげー。」


「あ、でも推しは“Kiwi Bird”らしいですけど。」


「キーウィバードね。俺も好き。」

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