第25話

歌詞を直せとか『赤い自転車』にしろとか、いくつか言われたけど覚えられないから、いつも通り詳細はリストアップしてくれる。



「言葉が引っかかってこねぇんだよな。何となく綺麗にはまとまってるけど」


「綺麗にまとめろって言うから。」

「パンチが無いんだよ。」


言いたい放題だ。

俺はそっと溜息をつく。



「Cメロも直してぇな。」

「えー。」


「あとずっと気になってたんだけど、ラスサビの『だから堂々と 歩いてくれよ』の後に『だから目一杯』のカッコはなんだ?」


「有った方が良いかどうかですね。弾いて良いっすか?」

「おう。最初からでも良いぞ。」


「いや、サビだけいきます。あーあー。」


声を出しながらギターも出して、弾く。

「だから」が重なるから、歌詞とフェイクをつなげるつもりだ。



「だから堂々と 歩いてくれよ Wow 」


ここで一拍。丁寧に言葉を声に載せる。



「Wow 目一杯 幸せになれよ」


アウトロ。ここでは声を入れない事にした。

褒めてくれていた池脇さんは、それについて何も言わなかった。



「これ、アルバムには載せるから。」


池脇さんはアルバムの話をし始める。


色々な事を言われたが



「お前、このままじゃあっさり飽きられるからな。」


それが心臓に突き刺さった。


わかってる。

でも思ってもない事を知ったような顔で歌うのも違うだろ。

そう思うけど、それは違うらしい。



「何度も言ってるけど、恋をしろ。それか女と寝ろ。マグロとプロ以外だ。」


池脇さんの持論が展開された。


「良いか。青臭ぇ考えは足手まといだ。利用できるものは片っ端から利用しろ。のぼりつめるためには頭さえふんづけろ。すねもかじれ。骨の髄までしゃぶれ。俺の手掛けた…」


池脇さんの手掛けたミュージシャンで代表的な二人の名前と実例が挙がればぐうの音も出ない。

二人はチャートを賑わせたり動画サイトで再生回数が億を超えたりする程売れている。


この歌を通して、誰かの心が軽くなれば良い。

許すことで人は前に進める事もきっと有るから。


ただそれだけなのに、こっぱずかしい思いもさせられて散々な時間だった。

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