第11話

荷物をまとめ終わった静寂くんが私の前に立つ。

ペットボトルの水を手にしていた。



「喉、渇いちゃいますよね。」

「…すみません。飲みます。」


静寂くんは勢いよく水を飲む。

あんなに声を出せば渇くに決まってるよねなんて思いながら、喉仏が上下するのを見ていた。



「おねーさん?」

「あ、いえ……あ。」


見つめていた事に後ろめたさを感じて慌てた私は、キョロキョロしてから気になった事を尋ねる。



「聞いても良いですか?」

「はい。」


「この駅、そんなに人多くないから、大きい駅でやらなかったんですか?」


「やりましたよ。俺上京して此処に来たんで、此処が本拠地なんですよ。陰キャだし。」


「そうなんですか?ふふ。」


陰キャがあんなふうに堂々と歌うのか。思わず笑ってしまう。


活動はライブハウスとネットを駆使しているという静寂くんは、動画サイトを利用したりSNSでライブをしたりしているらしい。



「俺も質問していいですか?」

「はい。」


「おねーさん、彼氏居たりしますか?」

「え?居ないです。」


「好きな人は?」

「いないです。」


「ほんとに?」

「ほんとです。」


食い気味に唐突な質問を重ねる静寂くんに2回うなずくと、彼は唇を尖らせてふーっと息を吐いた。


そして私の目をじっと見つめる。

何かを決心したかのような素振りにドキドキしてきた。



「あなたの日常に俺を入れてください。友達からでも。」

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