第9話

「おねーさんがさっきくれたアンコール」


静寂くんは片付けをしながらおもむろに口を開いた。思わず背筋を伸ばす。



「あれ、あなたへの俺の気持ちです。」


「へ?!」


「替え歌した部分。って元歌知らないから意味ないけど。」


素っ頓狂な声をあげた私に、静寂くんはいたずらっ子みたいな笑顔を見せる。



「いつもヘットヘトって顔して歩いてるの、見てたから。」


私ってそんなに目立つのだろうか?

いやいや、ザ・普通な私が目立つわけもなく


よほど疲れて見えるのかもしれない。

それとも怒って見えるのか。


静寂くんは私の戸惑いをよそに話しだす。



「俺、前ここでロックチューン…ロックな感じの曲歌ってたんです。そしたら、スーツのおねーさんが立ち止まって、俺の歌ちょと聞いて、音に合わせてずんずん歩き出したの。」


思い出したようにふっと小さく笑う静寂くんの横顔がきれいで、胸が高鳴る。


確かにそんな事は有ったと思う。多分、何度か。


そうだった。

私は静寂くんから元気を貰っていたんだ。

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