第6話

なんて丁寧にひとつひとつの言葉を紡ぐんだろう。

なんて優しい歌なんだろう。

なんて綺麗なファルセットなんだろう。


目頭が熱くなる。

泣いたらウザいだろうな。私は鼻をすすって堪えた。


間奏が入り曲が転調する。男の子はそれまで見ていなかった譜面台に視線を向けた。



「あなたの頑張りが たとえ報われないとしたって 僕はここで見ているから」


今度は顔をこちらに向けると歌いながら私を見つめる。

頬に熱が集まるのを感じた。



「悲しみに暮れる位なら 僕に聴かせてよ」


フェイクを入れてサビへ。


男の子は魂で叫んでいるような歌い方をする。

高揚感と緊張感に呑まれる。



アウトロが終わると、拍手が辺りに響く。

はぁ、と溜息が私の口からこぼれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る