第5話

「りょーかい。」


弾き続けながら、男の子は座っていた位置に戻った。



「もっかい聞いてくれるひとー。」


はーいという返事と拍手とアンコールという陽気な掛け声が聞こえた。

それを聞き遂げた男の子は私に視線を向ける。


「迷惑じゃないですよ。俺、もう一度歌いたかったし。」


そう私に声をかけてにっと笑う。

そして荷物からメモとペンを取り出した。



「ちょっと待ってて下さい。……オッケ。」


メモを譜面台に置くと、頭を小さく揺らした。


いち、に、さん



「聞き慣れた目覚ましの音 また同じ朝がきた」



ぶわっと全身に鳥肌が立った。


張り上げてなお澄んだ声が響く。

細長い指が6本の弦をかき鳴らす。

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