第31話

飛田が菓子折りを二つ渡したら、託児所のおやつにとか言って受け取ったと聞いている。



にしても。


上から下まで地味。

ナチュラルっつーらしいが地味だ。この街じゃむしろ浮くだろって位に。


そんな地味女は、ベタ付けした車から降りた俺を見るなり目を見開き頬を染めた。



「あ!ヤ、…えっと…、もうお身体は大丈夫なんですか?」


「"口に合わなかった"んだな。」



地味女から、淡い笑顔が消えた。


その手にある箱は飛田が用意した菓子折。

ベタな手と透けて見える地味女の意図に笑いそうになる。



「あんたには世話になった。でももう過ぎた事だ。帰れ。」

「でもこれは…」


「帰れ。」



吐き捨てた俺は地味女を肩でかわす。


刹那鼻腔を擽った香りを懐かしく思った。



なんて事は無い。

そんな日々が有った。只それだけの話だ。

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