第27話

午前1時俺は壁に耳をあてていた。


隣りは地味女が俺を世話する為に持ち込んだ布団を敷いて寝ている応接スペースだ。

物音はしない。


極力物音を立てずに解錠し、教会を出た。

待っていたのは舎弟と飛田だ。



「朝まで頼むぞ。」

「はい。任せて下さい。」


鍵が掛けられないから舎弟を見張りに付けて、俺は飛田に荷物を預ける。


もう会うことはないだろう。

この街は狭いようで、広い。



『幼い頃は厳格な家庭だったし、本当は信仰も押し付けられたみたいなものでした。

学校も働き口も与えられて、こなすだけで。

でもあの時、ヤクザさんの力になりたいって思ったのは、自分の意思で。

新しい何かが始まるような…。

なんかそんな気がしたんです。』


いつだったか、女が笑顔で言った言葉を思い出した。



この街ではいつもそこかしこで何かが始まる。


それと同じ位、何かが終わる。

当たり前に。



振り返らずに、舎弟の車に乗り込んだ。

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