第22話

「ヒダさん、帰られたんですか?」

「…あぁ。」


飛田が帰って暫くすると、地味女は俺の昼飯を運んできた。その目が飛田の持ち込んだ紙袋を凝視している。



「俺の荷物だ。」

「ヤクザさんの…。」


地味女は考えているのか押し黙る。


持ったままの皿に手を伸ばした。

ひっくり返されるかも知れねぇからだ。



「治ったら、ヤクザさんは戻るんですよね。」


そんな事を改めて口にする地味女。

だけどその声が何処か沈んで聞こえる。



「なんだか、淋しいです。」

「世話なんて面倒なだけだろ。」


「お世話、嫌いじゃないですから。」

「あんた変わってんな。」


「そうですか?」

「あぁ。」


「ふふ。そうかもですね。血まみれで"通報するな。匿え"って言われて匿うのは勇気が要りました。」


柔らかい笑顔で俺を見る地味女は紙袋を見遣ってから、言葉を続けた。


「幼い頃は厳格な家庭だったし、本当は信仰も押し付けられたみたいなものでした。

学校も働き口も与えられて、こなすだけで。

でもあの時、ヤクザさんの力になりたいって思ったのは、自分の意思で。

新しい何かが始まるような…。

なんかそんな気がしたんです。」


「…。」


俺は黙って地味女が作ったオムライスを口に運んだ。

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