第9話

「…………ぐっ、」


手前のエレベーターより遠い階段迄転がった。

全身の激痛に呻きながら階段迄這う。


しかしそこからの記憶は、無い。



厳密に言えば、何処かに寝かされたり爺さんの声が聞えたりはした。

しかしあまりにおぼろげで夢なのか現実なのかがはっきりしない。




再び俺が目覚めると開いた右目に飛び込んできたのは小さな天井。


空のスチールラックにテーブル。

病室でも住居でも無さそうな、殺風景で雑居ビルの一角みたいな場所だ。


ベッドは壁に沿うように置かれている。


壁をくり抜いた小さな窓からは5月の爽やかな日が差し込んでいた。


腫れている左目は異物感のような物を感じる。

目だけで考えれば全治1週間てところか。


身体を拘束されているわけでもない。

拉致られたとは考えられない状況に、少なからず安堵していた。



「おはようございます。」

「此処は何処だ?」


俺はトレーを持って静かに入って来た女に聞いた。

さっき一回起きた時に祈ってた女に間違いなさそうだ。



ベッドの横に椅子が有るらしい。女の頭の位置が下がった。

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