41話

「だって、ぶっ潰せるから。咲き誇って群青をね」 


は?何、言っちゃってんの。喧嘩売ってる?

売られた喧嘩は買うけど。


「あの、いきなり来て何言ってんすか」


心配してか康太が入ってきた。タイミングが良かったな。快先輩が居たら半殺しにされてるよ。


まあ、僕の手でめった刺しにしてやりたいがね。


「あ、すみません。咲き誇って群青ってオワコンのバンド、復活してるんでつい」



「はあ? 殺されたいの? 生意気言うのやめてくんない。ぽっと出のクソバンドのくせに」


イラッとから言い返してやった。

何なのこのボーカル、むかつく。


「怖いですよ先輩。お手柔らかにお願いします」


こいつ、僕と同じタイプか?

性格が悪すぎるだろ。


「君が最初に吹っかけてきたんすよ。優大、あまり乗っかるとまずいよ」


康太が止めてくれるから良かったものの、この男をぶん殴ってやりたい気持ちだ。


晴という男は馬鹿にしたかのように笑った。

ねえ、その笑い方止めてよ。あっくんみたいじゃん。


「ふっ。だって腹が立つんです。俺の大切なものを奪ったから。優大さん。心当たり、あるでしょう?」



こいつの大切なものを奪ったって何言ってんの。


もしかして真希ちゃんじゃないよね。

あっくんが取り返しに来たの?


まさか。そんなはず……


「意味分かんないんだけど。勘違いも程々にしてくれる?」


「勘違い、ですか。そう思ってくださって、結構です。奪われたら、全力で奪い返すのみなので」


こいつの笑顔、気持ち悪い。顔立ちが整ってるから尚更、気味悪く感じる。


片方だけ口角が上がった笑みが凄く嫌だ。



「西崎 真希」


今、なんて言った?


思わず言った言葉に、男は更に妖しく笑みを浮かべた。


何でお前の口からその名前が?


「彼女が前に歳上の彼と付き合ってた話、知ってますよね」


「それが何? 今は僕の彼女なんだけど」


「それ、俺です。元彼」


元彼? 真希ちゃんの? 嘘だ。

でも、嘘だとしたら何で彼女を知ってるんだ?


怖くなってきた。気持ち悪い。



「奪った罪は重いですよ、優大さん。覚悟してくださいね。では、失礼致します」


ひらひらする手の振り方まで、そっくりだ。

嫌だ、嫌だよ!


彼が帰るタイミングと丁度入れ替えで、快先輩が戻ってきた。


「おお! なんか、藍来みたいな色男だったな。新入りのバンドか? 確か……」


快先輩までそんなこと言うの。


「Vanilla、だって。僕に喧嘩売ってきた。最悪過ぎる。それに真希ちゃんを知ってた。元彼なんだって」


本当に最悪だ。あいつ、本当に化けて出てきた?


恐ろしすぎて、トイレで吐いてしまった。


メンバーは緊張し過ぎだって心配してくれたけど。

……そうじゃないんだよ。




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