ー真希ーどうすればよかったの

38話

え? 何でなの?


藍来が居なくなってしまった。


声が聞こえないし、ブレスレットが何だか軽くなったように感じた。


それに、水晶の輝きが鈍い。明らかにどよん、としてる。


本当にどこかへ行ってしまうの?



「真希ちゃん、あっくんが居なくなったみたいだね」


「うん……」




どうして。


私のせい? 今まで忘れてたから?


居ないと寂しいし困るよ。


藍来を好きだよ。恋人にはなれないけれど、大切なんだよ。


今までずっと一緒だったじゃないの。



こんな形でお別れなんて、嫌。


「真希ちゃん、泣かないで」


「私のせいだ。藍来を忘れてたから、だから居なくなったの」


もう、会えないのかな。

こんなことになるなんて。


もっと藍来を大切にしたらよかったんだ。


なのに、優大君と一緒に居ると楽しくて存在を忘れてた。それも簡単に。私って薄情な人間かもしれない。


いつも彼は私を1番に思ってくれて、大切にしてくれた。


それなのに、私は藍来を好きだという気持ちを忘れよう、なかったことにしようとしてた。


だって、幽霊が恋人になんてなれるはずない。


好きになっても虚しいだけ。


だから望まなかったんだよ。


でもまさか居なくなるなんて……



「違うよ、真希ちゃんのせいじゃない」


心配した表情で私を見る優大君。

なんでそんな泣きそうな顔してるの。


もう、何もかも全部私が悪いんだ。気持ちがぐちゃぐちゃになってく。


「僕じゃ、駄目なのかな? その寂しい気持ちを埋めるの」  


抱きしめてくれた。海で出会った時と同じ香りがする。


その匂いで思い出してしまう、藍来との記憶。

 

ついこないだまで海に一緒に行ったよね。


楽しかった思い出が頭の中を巡って、もっと寂しくなる。



涙が勝手に出てくる。


声をあげて泣くしかなかった。


「僕が傍に居るんだから泣かないで。あっくんの代わりじゃないけど、真希ちゃんを大切にするから」



優大君の悲しい瞳に、閉じ込められそうになる。じっと、見つめるんだもの。


瞳を見つめ返すと、彼に一筋の涙が零れた。

ねえ、どうか。

その涙の海に私を溺れさせて。


私を優大君でいっぱいにしてよ。

もう居ないはずの藍来がまだ、心に居座るんだから。


いつも頼りにしてた彼なんて居なくても大丈夫になるくらいに、大好きになりたいの。


「もしかして、真希ちゃん。あっくんを好きだったんでしょ」


「……うん。幽霊なのに好きになるなんておかしいよね」


「僕が一緒に泣いてあげるから。だから、あっくんを少しずつ忘れよう」



優大君は優しい。藍来とはまた違うぬくもりが悲しみを甘く溶かしていく。


一緒に泣いてくれた優大君。




ーーしばらく2人で涙をこぼして、気持ちが少しずつでも落ち着いた。



「ねえ、真希ちゃん。もう平気かな」



「うん、落ち着いた。大丈夫だよ」


「良かった。大切な話をしてもいい?」


差し出されたのはCDが入ってるケース。真っ白いCDには、愛しい存在と書いてある。


「これ、咲き誇って群青の新曲。実はこの曲をメンバーに聞かせたら、いい曲だから活動再開したいって話になったんだ。僕があっくんの代わりにボーカルをやる」



えっ! 咲き誇って群青が活動再開!?


それ、本当なの!?


「嬉しい! 咲き誇って群青、活動するの!? どうしよう、ワクワクしてきた!」


「喜んでくれて、嬉しいよ。この曲、今聴いてほしい」


渡された曲をCDプレーヤーにかけると、

甘くて優しいメロディが聴こえてきた。





ーーかけがえない存在が傍に居てくれる そんな運命を大切にしたい 出会った冬の海で愛を誓うよ 大好きだからーー


「優しい曲。これ、優大君が作ったんだよね? 」



「作詞も作曲も僕だよ」


「わあ。こんなに素敵な曲を作れるなんて凄い」


「真希ちゃんを思って作ったんだ。毎日大切に思いながら」


私を思って作ってくれたの?


どうしよう、凄い嬉しい。


心がいっぱいになっちゃうよ。

好きが溢れそうになる。


こんな気持ち初めて。優大君が私を思ってくれてる。

もっと惹かれてしまう。



「再来月の金曜9時の音楽番組、咲き誇って群青がでるから見てほしい。僕、頑張って歌うよ」


生放送の番組だ。久しぶりに、咲き誇って群青がテレビで見られる。楽しみ。リアルタイムでも見るけど、番組を録画しなきゃ。


「ちゃんと見るからね。優大君のボーカル、楽しみにしてる」


「ありがとう真希ちゃん。そうだ、ちょっと目を閉じて」


何でかなと思いつつも、目をつむった。






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