27話

しばらくして、彼女が帰ってきた。


あまり帰りが遅いと危ないからね。送って行くけど。帰してあげる。凄く楽しかったよ。


22時をちょっと過ぎたから、そろそろ帰る?


そう僕が聞くと、そうですね。お開きにしましょうと真希ちゃんが返事をした。


彼女、3杯飲んだな。話をするのが楽しそうだったから、何気に追加で頼んでた。


僕はお酒に強いけれど、あえて控えめにした。

お持ち帰りすると思われたくないし。


会計をする時、彼女が自分の分を払おうとしたから、止めた。


今日は話に付き合ってくれたんだから僕が払うよ。

そういうと彼女は遠慮をした。

後、僕の分まで払おうとしてたみたい。


一緒に飲みに行く女の子は、僕に払って貰うのが当たり前だと思ってる子が割と多い。


まあ、当たり前だと思ってくれても良いんだけどね。全然気にしないし大丈夫なんだけど、でも彼女みたいに遠慮する人は本当に好感が持てる。

こういう気遣いが出来る女性って凄く素敵だよね。


どうしても僕が払いたいからと言うと、何度もお礼を言ってくれた。凄く優しいな。


当たり前の事だと思わずに、ちゃんとお礼を言ってくれる。やっぱり真面目で良い子だな。


店を出てから、真希ちゃんは僕を見ながら言った。


「私、びっくりしました」


「ん? 何で? 」


「あの、凄い自意識過剰ですが、お持ち帰りされるかと」


「えー? 真希ちゃんが嫌がる事は絶対にしないよ」


「優大さんって凄くいい人ですね。素敵すぎます。私、男性って何を考えてるか分からないから、凄い苦手だったんですが。でも、優大さんは違います。男性として凄く尊敬します」


「そんな風に言われるとは。あ、手、繋ごうよ。危ないから」


「え? 手、繋ぐんですか」


「うん、だって危ないよ。真希ちゃん、転ぶかもだし?」


「私、そこまで酔っ払ってないです」


「でも、ね? 危なくない様にしたいから。姫を安全に送り届けなければ。はい。僕、手が冷たいかもだけど。冷え性だからさ」



「分かりました、照れちゃいますけど。ちゃんと送り届けてくださいね。王子」


「王子様か。あれ? 家来じゃないんだ? いや、守るんだからナイトか」


「優大さんは王子様っぽいです」


「なんか、照れるなあ」


「ふふっ」


僕が手を差し伸べると、真希ちゃんがそっと自分の手を添えてくれた。



「あっ!本当につめたーい。大丈夫ですか?」


「ん。大丈夫だよ。ありがとう」


彼女の顔を見ると、繋いでない方の手で口元を押さえていた。

その口元は微笑んでいる。


街灯に照らされて、表情が見えた。


真希ちゃんの手が冷たい。夜はやっぱり冷えるな。

12月だもんな、冬は嫌いだ。寒いと物悲しい気持ちにさせられるから。

それにたまらなく人恋しくなってしまう。



帰り道にどうしても、聞かなきゃいけない。次があるかどうか。


「あの、さ。やっぱり、もう会ってくれないのかな」


あんなに強気だったはずなのにもう、会わないって言われるのが怖くなってきた。

凄く怖い。

メッセージアプリでの楽しいやり取りも、もう終わりか。ブロックされちゃうんだろうな。


「パワーストーンの話が出来る人、優大さん以外に居ないから、会わなくなったら凄く寂しいなって思ってしまいました」


え?それって、もしかして?

期待で胸が高なってしまう。

僕の勘違いじゃなかったら、また……



「優大さんさえ良かったら、これからも仲良くしてくれませんか」


「え!? 本当に!? 」


自分でもびっくりするくらい、大きな声をあげていた。


「友達として」


「友達か。彼氏じゃないんだ」


「あはは! 友達ですよ! 」


凄く嬉しいよ、真希ちゃん。

だって、これからも仲良く出来るんでしょう?

友達でも良いかな。今だけね。


「友達なら、敬語止めようよ」


「それは、優大さんのお願いですか」


「そうだね。いつもお願いばっかりで申し訳ない」


「いいですよ。優大さんのお願いは好きです」


「好きなのは僕じゃないんかい! お願いの方なんだ」


「あははは! 楽しい! 敬語止めるね! 優大さん」


「優大で良いって」


「それは流石に?……じゃあ、優大君」


「優大君かあ。まあ、それでも良いよ! 」





他にも楽しい会話をしてたらもう、着いてしまった。


居酒屋から駅まで割と近くて良かった。


腕時計を見ると歩いて、20分くらいだった。



真希ちゃんを無事に送り届けたから、ひと安心。



こんな事になるなんて。友達になれるとは、正直想定外だった。


今日は凄く楽しかったよ。本当にありがとう。バイバイ、また後で連絡するね。おやすみ。と言うと彼女はこちらこそありがとう。またね、おやすみなさいと手を振ってくれた。


心の中が彼女でいっぱいになりそうだ。

結構好きになってしまってる自分にびっくりした。


空を見ると月は見えなかったけど星がちらついていた。


息を吸った。恋してる自分が微笑ましいな、なんて思えてきて。笑ってしまった息が白い。



……あの作戦は意味が無くなってしまったような気がする。まあ良いか。



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