16話

『何考えてるんだよ優大。俺を怒らせて楽しいか』


何考えてるんだよ、はこっちの台詞なんですけど。

なんで死んだ人間なのに、恋しちゃってんの。

本当に笑える。


死んだら何にも残らないんだよ。1つとしてね。

それに得るものだってない。

失う他ないんだよ、それが死というものだ。


滑稽すぎるでしょ。

叶わない恋なんかしなければ良いのにね。

悲しくなるだけ。それなら、恋愛なんてしなければいい。


なのに彼は手にいれようとしてるんだから、ずる過ぎるよ。


あっくんの為にも、真希ちゃんは奪わなきゃならないね。

このままだと不幸になる、きっと。


絶対に結ばれてはいけないんだよ。



2人の幸せの為に、別れさせるんだ。

あれ? 僕、結構優しくない?

性格悪いのに、って自分で言うのもなんだけど。


「怒ってるあっくんも、中々良いね。やっぱりあっくんは、かっこよくなくっちゃね」


うわあ、今凄く悪い顔してるな。自分で分かる。

楽しくてしょうがない。彼をおちょくるのが。

このまま僕の玩具おもちゃになってもらおう。


『馬鹿にすんなよ! どんな形でも真希の傍に居る! 俺が彼女を護らなかったら誰が護るんだよ! 』


自分の存在な真希ちゃんにとって必要だって、本気で思ってんの?

そんなの甘すぎるよ。相手のことを全く考えてないんだね。


護りたいとか言っておきながら、自分のためなんじゃないの。

必要とされるために、その立場でありたいんだよね、きっと。


それって何もかも間違ってるよ。


真希ちゃんが大好きで仕方ないんだね。


本当に彼女のためを思うなら、死んでる自分は要らないって思うでしょ。


それをいい気になって、真希ちゃんを困らせようとしてるんだからしょうもないよ。


邪魔でしかないんだ。あっくんって存在が、真希ちゃんにとっては。だって幽霊なんだから。


生きていれば話は別だけどね。生き返るなんて出来ないし。



「だから、僕が居るんじゃないの。第一さあ、気味悪くない? 幽霊が自分を好きだったら。僕だったら怖すぎて震えちゃうな、本当に気持ち悪い。嫌すぎるでしょ」


真希は俺の存在を受け入れてくれてる。

それに、彼女は俺だけのものだ。そう言ってみせるあっくんに言い返す。


「受け入れられてると、思い込みたいんだ。あっくんは、真希ちゃんにとって必要ないと思うけどな」


『そんな事ない』


あっくんは強く否定してきた。

表情が暗い。

なんだか可愛そうにも思えてくる。だって、実らない恋だって全く分かってないから。


真希ちゃんは彼の気持ちがここまで強いのを、知ってるんだろうか?


独占欲が強いことさえ、きっと知らないだろうな。


化けの皮、剥がしてやりたいな。彼女の前であっくんの本性を教えてやりたい。


真希ちゃん、怯えるかな。悲しむかな。

いずれにせよ僕は真希ちゃんを手に入れるんだ。


あっくんには嫌われてもらう。

彼女はあっくんの本性なんてきっと知らないし、大好きだろうからズタズタに引き裂いてやらなくては。



自分の大切にしてる関係なんてね、簡単に壊れるから。僕はそれを沢山経験してきた。


どんなにお互い、心地よくたって必ず終わりは来る。

本当の自分を見せただけですぐに嫌われるよ。

だから、人間はみんな仮面を被るんだ。



本音で居続けるなんて、正しいはずがない。


『真希が俺を必要としなくなったら、もう1度死んだって良い』


あのさあ、馬鹿も大概にしてほしいんだけど。

本当に情熱的ですこと。

熱すぎてこっちが恥ずかしくなってくる。

そんなに本気になるような相手なんだね。



というかさ、2度も死なれたら大迷惑だよ。

ただでさえ1度死んでしまって、それによってバンドが活動出来なくなってしまったのに。


あっくんが死んでから、バンドの時間は止まったままだ。活動なんて、とても出来ない。


彼がボーカルじゃなきゃ、意味が無いから。

ジグソーパズルと同じ。ひとつなくなったら、もう完成しない。


4人で咲き誇って群青なんだから。

あっくんの居ない咲き誇って群青なんて、活動しないままで良いんだ。


ねえ。自分の気持ちが本気であればあるほど、後悔するんだよ。


止めれば良いのにね、何故分からないかな。

彼は、自分で自分の首を絞めてるよ。凄く苦しいはずだ。


あっくん。本当は気づいてるんでしょう?自分の存在が要らないって。


気づかない振りしてないでさ、僕が教えてあげようか?



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