14話

「ここ、僕の地元なんだ。実家からこの海近くてさ。あ、今の秘密ね。地元は公表してないから。まあ、僕の家はここから結構離れてるんだけどね。久しぶりに来たんだ、何年ぶりだろ」


「へぇ、地元なんですね。分かりました、秘密ですね。私も来るのは何ヶ月ぶりかな?」


「そうなんだ。ファン歴はどれくらい? 」


「うーん、8年くらいですかね」


「お、長いね。でも最近活動してないから知らないだろうと思ってた。君、可愛いから付き合ってほしいな。あ、返事ならいつでも大丈夫」



付き合って欲しいだなんて、信じられない。

きっと何かの間違いだ。そう、聞き間違えたんだ。

多分、舞い上がりすぎて変な妄想してるに違いない。


それに私はただのファンだし。憧れの人を異性として見られない。


「というかね。YESの返事しか聞かないよ、僕は。君、真面目そうだから断ると思うけど。でも、一度好きになった子は、自分のものにしないと気が済まないんだ。だから、まず名前教えて? 」


西崎真希にしざきまきです。自己紹介しましたけど、でもやっぱり付き合うなんて無理です」


「あーあ、振られちゃった。悲しいなあ」


唇を結んでいて、悲しそうな表情してる。申し訳ない気持ちになってしまう。


でも、気持ちは変わらない。私は咲き誇って群青を好きでいたいからファンのままで良い。


「でも簡単に諦めないよ。だって君、可愛いんだもん。よろしくね。僕を優大って呼んで」


諦めないって言われた。

断ったはずなのに、どうして?

もっと強めに言った方が良かった?

付き合うなんて本当に出来ないよ。


「優大さん、私」


「えー? 優大だよ。真希ちゃん」


「あの、ごめんなさ……」


私の話を遮って、優大さんがあ、パワーストーンしてるんだ。見せて欲しいと言った。


「これ、水晶かな?にしては色がなんか白っぽい部分があるね。でも、透明感があって不思議」


パワーストーン好きとしては、語らずにはいられなくて、思わず説明をしてしまった。


「そうなんです。綺麗でしょう? 白っぽい所は天使の羽と言われてて、珍しい水晶なんです」


もっとよく見せてと言われたから、左手にしてるエンジェルフェザークォーツのブレスレットを外した。

冷たい手してる。大丈夫かな? あと、いい香りがする。


きっと香水だ。爽やかな、シトラスっぽい。

私の宝物のシトリンタンブルを思い出す。


なんだか酸っぱいのに。つい欲しくなるみたいな。


ブレスレットが優大さんの手に渡る。


すると


「返してあーげない」


笑顔で言ってきた。きっと意地悪されてる。

かっこいいから、許してしまいそう。

でもその水晶は大切だから、返してくれないと凄く困る。藍来だって宿ってる訳だし。


「大切なので返してください」


「やーだ。連絡先教えてよ」


連絡先を教えたら返してくれるかな。

本当は教えたくない。ファンのままでいたい。

でも、ブレスレットを返してもらわなきゃ。

仕方なく、スマホのメッセージアプリの連絡先を教えた。


「ありがとう。それじゃ、またね。後で連絡するから」


え。ブレスレット、返してくれないんですか。


思わず言った私に


「次に返すよ。だからまた会ってね。その時までに、僕を好きになってくれたら嬉しい」


と優大さんが返事をした。


「好きになんて……」


と言いかけた時、それ以上は言わないでと、しーっと人差し指を出した優大さん。

彼の唇に指が触れたその瞬間、距離がさっきよりずっと近い。そしてそのままその人差し指が私の唇に触れた。



優大さんは微笑んだ後、颯爽と帰って行った。


私は、ただただ驚いて動けないでいた。


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