13話

近づいてきた人は、茶髪でふわふわした髪型。

黒いマスクだ。白いマフラーに黒のニット。

黒のコートを来てる。男性だ。


「こんにちは。海、綺麗ですね」


私、話しかけられた?びっくりするなあ。


「あっ、えっと、はい。そうですね」


返事がなんか、ぎこちない感じになっちゃって恥ずかしい。顔が熱くなる。


「いきなり話しかけてしまったから、びっくりしちゃいましたよね。ごめんなさい」


どこかで見たことがある雰囲気のような。

いや、気のせいか。

っていうかこれ、ナンパじゃないよね。

凄く困る。どうしよう。


「いえ、大丈夫です」


大丈夫ですと言ったものの、凄く緊張している私。

早いとこ会話を切り上げて帰った方がいいのかも。


「こんな寒いのに海に居る人、珍しいから声かけたんです。海、お好きなんですか? 」


「は、はい、大好きなんですけど、久しぶりに来ました。仕事が忙しくなる前は、よく来てたんですけどね」


って私、何答えちゃってるの。 でも聞かれると無視とか出来ない。ノリで話しかけられたとしても、失礼になるでしょう。


「僕も大好きですよ」


一瞬、ドキッとした。自分のことを好きって言われたのかと思ったから。違う、海の事だよね。



「あ、えっと、海凄く好きなんですね」


「ええ、君の事も」


え。 やっぱり、ナンパだったの。

いきなり好きとか言われても困るし、軽くない?嫌だな。


「ごめんなさい。帰りますね」


「帰らないでください。一目惚れなんです」


一目惚れ? 嘘でしょう?

なんで、たまたま海に来ただけなのに、声かけられて告白までされるの。

意味分かんない。知らない人なのに、怖い。


「あ、僕の事知らないから、困ってます?」


知らないも何も初対面なはず。

というか、いきなり声をかけて告白をしてくる人なんて、知り合いにすらなりたくない。

さっさと話を終わらせて帰りたい。

いい気分で居たかったのにな。


「僕ね、柊優大ひいらぎゆうだいっていいます」


嘘だ。柊 優大って、あの優大さんの名前じゃん。

優大さんは作詞作曲する時、本名でやってる。

雑誌のインタビューで、自分の名前を明かしてた。


それに、歌詞カードに載ってたから知ってる。


というかこんな軽い人、優大さんな訳がない。


雰囲気、似てるけど……

それにこんな所に来るはずがない。


「嘘は止めてください。私、咲き誇って群青の大ファンなので」


私がそう言うと、茶髪の男性はマスクを外した。顔を見ると、テレビで見たことがあるあの優大さんだった。まさか、本人だったなんて。驚かないわけがない。


じっと、見てしまう。鼻筋が通っていて、目がぱっちりで、厚めの唇。口元のほくろ。右側にある。


やっぱり優大さんで間違いないよ。


信じられなくて、夢かと思ったけど違う。

紛れもなく現実だ。


大好きな芸能人に会えるなんて、珍しすぎて。

ラッキー過ぎない?

私、運を使い果したかもしれない。そうだとしても嬉しいから構わない。


「マスク外したから分かるよね?大ファンなんだね。嬉しい、ありがとう。仲良くなりたいから敬語止めるね」


にこっとかっこよく優大さんが笑った。凄い。笑顔が素敵過ぎる。本物だ!


こんな表情をされたらときめいてしまう。

さっきから私のテンションは天井を限界突破。


……じゃなくて! 私、優大さんにナンパされてる!

それに、なんでこんな所に居るの?


「あの、何でこんな所にいるんですか」


思わず聞いちゃった、だって気になるから。




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