ー真希ー海であなたと

12話

もこもこの白いセーター、白のロングスカートに白のタイツ、淡いピンクのコート。よし、あったかい格好! 赤いマフラーと白の手袋も忘れずにね。

寝起きのままだったから、メイクもちゃんとした。

いつもは聞いてるだけなのに、咲き誇って群青の歌なんて歌いながら準備した。


曲は明るいやつ。タイトルはミッドナイトブルー!

いつも切ない咲き誇って群青にしては、ノリが良いの。


ーー深い青にダイブして 染まっていこうよ もう帰りたくないんだ 憂鬱の町 つまらない気分 ぶっ飛ばしていこうーー


ああ、なんて楽しいの!まだ海に向かってもいないのに。



髪型はいつものように後ろで1つに束ねた。

風で髪が邪魔になるかもしれないから。


シュシュがビビッドなブルー!


素敵な色は気分を更に上げてくれまーす!


さあ家に鍵をかけて、いってきます!


足取りが羽根が舞うみたいにふわりと軽い。



歩いても海まで行ける。それでも30~40分くらいかかる。


私はお散歩が好き。暇な時いつも歩いてるから、それくらいの時間は大丈夫。歩いて行けるなら近いって言ってもいいでしょ? 


自転車で行っても良かったんだけど、風が冷たいから止めておいた。それに、早く着いちゃうと彼と会話がそんなに出来ないと思ったから。


藍来とはなるべく楽しい話をしたい。

彼と話してると時間をついつい忘れてしまう。

話を引き出してくれるし、ちゃんと聞いてくれる。


スキップなんてしちゃってたーのしい! ふふーん♪

もう、なんか空まで飛べちゃいそう。上がりっぱなしなテンション。


外は寒い。それに天気は曇ってる。葉っぱが全くない木。なんだか寂しいし、吐く息までもが心を冷たくさせるみたい。

なのに、私の心はあったかい。


だって楽しいんだもの!

もっと、もーっと楽しくなる会話しようっと。


海に着くまでの間、話題はバンドの話だった。

勿論、咲き誇って群青のこと。


あの時から活動を全然しなくなった。



メジャーデビューしてから毎日欠かさずブログを書いてた事で有名な優大さんだったのに、あの日以来、更新されてない。


活動再開する日を心待ちにしてるんだけど、藍来が亡くなって、代わりのボーカリストなんて簡単に見つかるはずもない。


でも、いつかまた再会してくれたらいいな。

そう考えた方が気持ちが明るくいられる。


私が咲き誇って群青を知ったのは、バンドがメジャーデビューして2年くらいの時。


とある音楽番組で見かけた。


その番組を見た理由は、他のバンド目当てだった。

だけど、たまたま咲き誇って群青も出てた。


深夜の時間帯で眠かった。でも咲き誇って群青が出てきた途端、衝撃すぎて目が覚めたんだ。


メジャーデビュー曲の海をやってて、凄く切ない曲で綺麗だと思った。音楽に綺麗って表現、変かもしれないけど、本当に切なくて美しいって感じたの。


歌詞だって、きっと大人の恋愛を描いてるんだなって思った。私の中で、うんと大人に感じた。


その頃の私は凄く暗くて、異性がなんとなく苦手だったから恋愛したことが無かった。


だから、海を聴いて凄く恋愛に憧れたの。

その時私は19歳、恋愛したっておかしくない年頃なのに全然縁が無くって。


まあ、前に居たけど自然消滅した。


連絡が全く無くなったし、自分からもしなかった。

連絡先を消してある。もう二度会わないだろうから、別に良い。




目的地にとうちゃーく!やったあ!


マスクを外して潮風を思いっきり吸った。気持ちが良いな。


風が吹いてるわりには波が穏やかな気がする。

ちょうど良かった。その方が癒される。


自然って不思議、いっぱい元気が貰えるから。


海ってずっと見ていたくなるくらい飽きない。


「藍来、海だよ! 」


海、良いね。寒くない? と心配してくれた。

あったかい服装だから大丈夫だよと答えた。


ふと、周りを見ると人が居なかった。冬の海だもんね、寒いから誰も来ないか。


貸し切りみたいな感じでいいなと思ったけど、よく見たら離れた所に1人居た。先客が居たなんてね。

あの人も海好きなのかな。


まあ、話しかけないけど。

知らない人に話しかけられたら嫌だよね。

私だったら、結構気まずく感じちゃう。

元々自分から話しかけるのは苦手。


あれ? なんかあの人、近づいてきてない?


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