9話
ああ、こんなに自分って欲深い男だったのか。
満たされていると感じていたはずだったのに。
物足りないだなんてね。
昔に比べると変わったな。前は欲しいものなんて分からなかった。
子供の頃、誕生日プレゼントに何が欲しいか母に訪ねられた時、決められなくて泣いてたっけ。
あり過ぎてじゃなくて欲しいものなんて本当に無かった。
沢山のものが、あるはずなのに何にもいらなくて。
そんな俺に欲しいものを聞くのが、そもそも間違いなんじゃないかって子供ながらに思ってた。
今は違う。
彼女を思えば思うほど、心が求めてしまう。
だってこんなに愛してるから。
真希も大好きだって言ってくれる。
なのに足りない。不足してるけれど、そんな感覚さえも彼女が与えてくれたものだとしたら、愛しいと感じるのは変なのかな?
分からない。でも、彼女の存在が俺にとってかけがえのない大切なものなんだ。
いつまでも傍に置いてほしい。真希。
君をこんなに思ってるよ。
彼女の全てを優しい愛で包み込みたい。
真希の幸せのために、俺は尽くすのみ。
何もかもを捧げる覚悟だってある。
フレイムが終わり、次の曲が流れた。
「あ、この曲確か優大さんの曲だ!」
ああ、冷たすぎる波が自分をさらっていくような憂鬱。気持ちが深まり沈んでいく感覚が悲しい。
底の知れない孤独を感じてしまった。
ピアノの残酷なほどまでに儚いメロディー。
1つ1つを計算しつくしたであろう。
切なすぎるこの音の流れは、そう、海だ。
海という曲は優大の自信作で、俺たちはこの曲でメジャーデビューしたんだ。
いつもの優大からは、想像出来ないような暗い曲。
どうやって作ったんだ?
そういえば、失恋したとかなんとかで、その気持ちのまま書いたとか言ってたっけ。
好きな人に、出会った場所も振られたのも海だって言ってたような。
優大は結構、事実を元に作ることが多いような気がする。
聞いてる限りではそう。この曲は歌詞もあいつが作詞した。
よく、事実を絡めて作れるよな。俺には難しい。
ーー悲しみの数だけ増えていく
冬の海の風が 心の傷にしみて 泣きそうになる 愛しい気持ちはこんなにあふれるのに 届かない 君の笑顔に触れていたかった ずっとーー
「優大さんが、こんなに悲しくて切ない曲作るなんて。 やっぱりかっこよすぎるー! それに、優大さん主演のドラマのエンディング曲だもんね。かっこよくない訳が無いよ! 」
うわ、すげー嫉妬する。
そんな素晴らしい曲が作れる才能にも、真希が優大に対して言ったかっこいいも羨まし過ぎる。
俺は演技なんて全く出来ない。むしろ苦手だ。嘘すらろくに付けないような、演じられない人間。
ドラマに出てる優大は悔しいけれど凄くかっこよく見えるし、演じるのは何よりあいつに合ってる。
なんか優大に彼女を取られたみたいな気持ちになった。
真希のかっこいいだって俺が独り占めしたい。
というか、優大にかっこいいって言葉はもったいないから。
あいつ人前ではかっこよく振舞ってるけれど、本当は性格悪いっつーか腹黒いし。
俳優をやってるのもあって演じるのが上手いからか、外面は良い。
そんなやつよりも俺の方がかっこいいって言ってほしい。
『俺と優大、どっちが好き? 』
思わず聞いてみた。勿論、俺だよね? そうじゃなかったら嫉妬で頭がおかしくなりそう。
真希の中にある、あいつという存在を二度と思い出せないように完全に消したくなる。それはもうバラバラの粉々にしてしまいたい。
そして、彼女の心に自分の存在を深く刻みつける。
優大は絶対駄目だ。というか、俺以外は本当に駄目だからね。真希。
「えー?どっちも大好き」
どっちもって、それは浮気だよ。俺という男が居ながら、別の男も選ぶのかい?それは非常に困るな。
『もしも、どちらかしか選べなかったら?』
なんで、そんなこと聞くの?
どちらかなんて、選べないよ。
咲き誇って群青のメンバーは、みんな大好きだもん。全員かっこいいから!
真希が楽しそうな笑顔で答えたから、自分自身に笑ってしまう。
嫉妬し過ぎだよな。
真希の答えは、頭の中で簡単に予想できた。
やっぱりそう答えると思った。
でも、でもね? 本当は……
『ふっ……俺が一番って言って欲しかったな』
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