3話

藍来だからあっくん。高校の時から色んな人にそう呼ばれてた。


バンドメンバーの中で、年下のベースの奴が特にそう呼んでたし、呼び始めたのもそいつ。


初めて呼ばれた時は、嫌に馴れ馴れしいなと感じたけれど、そのあだ名がいつの間にか周りに広まっていった。


後輩からは名前に、さん付けで呼ばれる方が多い。

あっくんて呼ぶのは先輩や同級生、ベースの奴くらいだ。


テレビに出始めた時も、メンバーがそうやって呼ぶものだから、ファンにまであっくんが定着した。



まあ今思えばあいつは、俺に対して親しみを込めていたんだろう。


っていうか、なんで直ぐにあっくんって呼んでくれないのかな。……もしかして?


『なんだよもう、 可愛いな。照れてんの? だから素直にあっくんって呼んでくれないのかい? 』


「てっ!? 照れてないから!藍来の気のせいじゃないかな? 」


『いや、絶対そんな事ない。照れてんだろ』


「ちがーう! 」


『あっくんだよ、真希』


「藍来」


『違うよ? あっくんだってば』


「あっ、あっくん」


やばいな。今、顔がにやけてる。こんなの絶対に見せられない。


真希には俺が幽霊でも姿が見えてるんだからな。


だらしない表情見せたらまずい。それにしても照れてる真希、可愛すぎる!


こんなんでドキドキしない男がいるもんかよ。

あだ名を呼んだだけで照れたりするんだからな。


俺だって真希の名前を呼ぶ時は、大切に呼びたいと思うよ。


幸せだよな、こういうのって。些細なことかもしれないが。



楽しいやり取りに心が癒される。


『すっげー嬉しい。ありがとう』


好きな人に呼ばれると、こんなにも、とろけそうになるんだ。

何回でも呼ばせたい。

その可愛い声が好き。本当に大好き。


俺は音楽をやっていたから音に敏感で、それが関係あるか分からないが声フェチな所があってね。

真希は心に響く良い声をしている。



「う、うん。どういたしまして」


愛しい彼女は俺の全て。

だから君に何かあったら、どんなことがあっても守り抜く。


全てを失ったっていいんだ。真希さえ失わなければ、他は全部無くなったって何一つ惜しいと思わない。


だって俺じゃなければ誰が守るんだ?

真希に彼氏はいない。


3、4年前に居たらしいが、自然消滅したようだ。


あまり詳しくは聞かなかった。

というか聞きたくなどない。


そんな奴の記憶など、全部塗り替えてやりたいくらいだ。

彼女の過去でさえも俺だけのもの、独り占めしたい。



でも、確か年上って言ってたな。

自分も真希より年上だけれど……


というかはっきり言って


俺以外の男なんて居なくていいだろ。

こんなに大切にしてるんだからな。

別に思い上がりじゃない。紛れもない事実だ。


前に同じ会社の既婚者の男が、彼女に言いよってきたからブレスレットの魔除けの力で追い払っておいた。


俺は水晶に宿っていることにより、幽霊でも水晶の力が自由に使えるようになった。


真希を守りたいと思った瞬間に力が発揮されたから知ったんだけどね。


守るためなら全力でやる。

水晶の悪を祓う力は本当に強い。

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