ー藍来ー守りたいその笑顔

2話

俺は幽霊で、エンジェルフェザークォーツに宿っている存在。って言っても理解できる人なんて誰も居ないだろう。


そもそもエンジェルフェザークォーツとは何か。

簡単に説明すると水晶の内部構造の欠陥により、天使の羽のようなものが見える。

諸説あるらしいが、まあちょっと変わった水晶だ。


欠陥、そう、俺は欠陥だらけの駄目な奴だった。

彼女、真希に出会うまでは。


持ち主である彼女の幸せを強く願っている。


何故、パワーストーンに宿っているかって?


真希を心の底から愛しているから、守りたい。それ以外の理由なんて無い。


真希を幸せにすると心に誓った。


エンジェルフェザークォーツは、真希が最も大切にしている、水晶のブレスレット。



仕事の時はスーツのポケットの中に入れてお守りにしていて、休みの日は必ず左手に身に付ける。


彼女はよくつけているブレスレットをじっ、と見つめることがある。どうやら水晶の中にヒビがあり、そこから生じる美しい虹を見ているらしい。


様々な色が見られるのは万華鏡を覗いてるみたいで楽しいって言ってた。


特に青色が見えたら嬉しいんだって。

他にもピンクや緑がキラキラしてるから、カラフルで面白みがあるみたい。



真希の二重でぱっちりとした大きな目。透き通ってる綺麗な瞳が大好きなんだ。



エンジェルフェザークォーツ。

エンジェルがつくくらいなら真希にとって、俺は天使みたいに柔らかな存在か。


まさか、そんなの柄じゃないし。

天然石に宿る幽霊だから。


でも正直なところ俺は、そんな曖昧な感じって好きじゃない。

見えないものを存在としてとらえるなんて、普通の人間はしないだろう。


まあ信じる信じないは別として、自分は真希に認識してもらえている。


だからこうして一緒に居られるわけだ。


真希は繊細な性格で人に影響されやすい。

他人から放たれたマイナスエネルギーを持って帰って来て、精神的な落ち込みが激しくなる。


エンジェルフェザークォーツの浄化の力で癒したりもする。



それだけでない。彼女に近づこうとする男は誰であろうと、水晶の魔除けの力で関わらせない。


真希は、悪いものをはらう力が水晶にある事を知っているが、俺がその力を使って男を追い払ってるのは知らないだろう。


いやきっと知ってしまったら、嫌がって身につける石を変えてしまうな。それは非常に困るから黙っておこう。




幽霊で真希の傍に居る、俺の名前は佐野藍来さのあいく


ロックバンドのボーカリストだった。


やっていたバンドは長くファンをやっている人が結構居るみたいで、違うバンドの仲間達や、先輩からもいい曲をやってるって評判が良かった。


切ない曲や激しい歌が沢山あり、ポップで明るい感じの曲は無いことはないが、比較的少ない。


万人受けはしないけれど、好きな人にはどこまでも刺さるらしい。


とにかくもう大好きです!

万人受けしない所が聴衆に媚びなくて素晴らしい!

そんな所がかっこよくて痺れる!

曲もひたすら切なかったり、この上なく激しいのもあり、その幅広さ凄く良いです! 唯一無二の存在感が強いですね!


って確か、他のバンドのギターをやってる後輩がそう言っていたような。


バンドメンバーと一生懸命やってきた道のりは、無駄じゃなかったんだろう。ついてきてくれる人間は多かった。


まあ、特にメンバーが頑張ってた。俺はそれに乗っかっただけ。


それでも自分たちを信じてくれる人たちのために、引っ張って行かなきゃいけなかった。


メジャーデビューをして8年目の矢先に俺は……


「藍来」


真希の澄んだ綺麗な声が聞こえた。


「おはよう、藍来。うーん眠いなあ」



ベッドから起き上がり彼女は欠伸をした。

動きのひとつひとつが、たまらなく愛しい。

ずっと見ていたくなるくらいに。

んー、と身体を伸ばしてる。


俺が昔、好きだった猫みたいだ。

飼っていたんだ。キャラメルって名前で。

彼女の仕草がそうとしか思えない。

もふもふしてたら完全にそう見えるだろう。


腰より少し上くらいの、さらさらストレートの茶髪に少し寝癖がついてる。寝癖でさえも可愛く思えてくる。


『おはよう真希、今日もよろしく。寒いからあたたかくして仕事に行こうな、って今日……』


土曜日である今日は、仕事が休みである事を思い出した。


「あれ? 今日ね、私仕事休みだよ」


『そうだった。あ、ねえ。藍来じゃなくてあっくんって呼んで。名前もいいけどね。でも……』


あっくんって可愛い声で呼んで欲しくなったんだ。


「なんで? 藍来でいいじゃん」



藍来よりも、たまにあっくんて呼ばれる方が特別感があって良い。なんか彼氏みたいに思えてくるから。


『たまに藍来って呼んでくれないと、なんか寂しい』


「藍来」


『あっくんって呼んでよ。藍来じゃなくてさ』


「藍来は藍来でしょ」



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